東北大学大学院国際歯科保健学分野教授の小坂健氏らは、約4万4,000人の高齢者を対象に口腔の状態と9年間の追跡期間における要介護発生との関連を調べ、現在の歯数、咀嚼困難、口腔乾燥、むせの4項目で評価した口腔状態の悪化が要介護発生リスクの上昇と関連したとArch Gerontol Geriatr2023; 111; 105009)に報告した。口腔状態の要介護発生への寄与の大きさを表す人口寄与割合(PAF)を算出し比較した研究は初めて。(関連記事:歯の喪失と認知症発症の機序を解明

口腔の健康状態が要介護状態と関連する

 これまで口腔機能と要介護発生との関連に着目した研究は少なく、特に口腔乾燥やむせについての報告はほとんどなかった。今回、小坂氏らは65歳以上の4万4,083人(平均年齢73.7±6.0歳、女性53.2%)を対象に、日本老年学的評価研究機構の2010年調査をベースラインとする9年間の追跡調査データを使用し、COX比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)および95%CI、PAFを算出した。PAFは、その危険因子に暴露している人がいない場合の、集団における要介護発生が減少する割合を示す。ベースライン時点で日常生活に介助を必要としている対象者は除外した。

 ベースライン時点での歯数(現在歯数19本以下)と基本チェックリストの3項目の口腔機能の低下(咀嚼困難、むせ、口腔乾燥)を説明変数とし、新規要介護認定(要介護2以上)を目的変数とした。共変量としては性、年齢、婚姻状態、社会経済的状況、既往歴(糖尿病高血圧脳卒中、がん)、身体機能(歩行時間)、生活習慣(喫煙歴、飲酒歴)を含めて解析を行った。追跡期間中〔中央値3,040日(範囲2,753~3,303日)]に8,091人(18.4%)が新たに要介護認定を受けた。

 100人・年当たりの新規要介護認定の発生率は、全体の2.39に対し、咀嚼困難ありの3.27が最も高く、次いで口腔乾燥あり3.20、むせあり3.10、現在歯数が19本以下2.89、の順に高かった。

 COX比例ハザードモデルを用いた解析の結果、口腔内の状態が要介護認定の発生と有意に関連しており、咀嚼困難あり(HR 1.22、95%CI 1.16~1.28)、口腔乾燥あり(同1.1、1.12~1.24)、むせあり(同1.18、1.12~1.25)、現在歯数が19本以下(同1.10、1.04~1.17)のいずれにも有意な関連が認められた。要介護認定の発生に対するPAFでは、現在歯数(12.0%)が最大で、次いで咀嚼困難(7.2%)、口腔乾燥(4.6%)、むせ(1.9%)の順だった。(

図.口腔の状態が要介護発生にもたらす人口寄与割合(PAF)

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(東北大学プレスリリースより)

 同氏らは「9年間の縦断研究の結果、4項目の口腔状態の悪化と要介護発生リスクとの間には有意な関連が見られた」と結論。歯の喪失の予防をはじめ、高齢者の口腔の健康の維持・向上が、将来の要介護発生リスクを減らす可能性が示唆された。

服部美咲