卵巣がんは予後不良の女性生殖器悪性腫瘍で、2020年の罹患者数は1万3,388例、死亡者数は4,876例に上る。早期発見が困難でほとんどのケースが進行期で診断されることから、5年生存率はⅢ期で約45%、Ⅳ期で約27%と極めて低い。高精度・高感度なバイオマーカーの開発が急務とされる中、名古屋大学病院産科婦人科(同大学高等研究院兼務)病院講師の横井暁氏らは、ヒトの体液中に存在し細胞間コミュニケーションに必須の細胞外小胞(エクソソーム)に着目した研究を実施。卵巣がんの新規バイオマーカーとして有望な膜蛋白質を発見したとSci Adv2023; 9: eade6958)に発表した。

高悪性度漿液性卵巣がんを対象に研究

 卵巣がんは組織型により7種に分類されるが、横井氏らは日本人で最も頻度の高い漿液性卵巣がんのうち高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)を対象とした。これまで、HGSOCに特異的かつ高感度のバイオマーカーや細胞外小胞に関連した膜蛋白質について詳細は不明だった。細胞外小胞の表面に存在する膜蛋白質は、応用性に富んだ重要な標的分子と目されている。また、体液中の細胞外小胞の不均一性の理解も重要視されており、詳細かつ精巧な細胞外小胞プロテオミクスの評価が大きな課題となっていた。

 一方で、膜蛋白質を臨床バイオマーカーとして実用化するには、①細胞外小胞上の疾患関連分子の同定、②細胞外小胞の不均一性の理解に加え、③簡便な細胞外小胞捕捉法の開発−も重要な課題として挙げられる。この点において、細胞外小胞回収方法の技術革新に向けたテクノロジーの応用が期待されていた。

FRα、Claudin-3、TACSTD2の3つを同定

 横井氏らは、卵巣がん細胞および非がん細胞、卵巣がん患者の血液や腹水から、200nm未満の小さな細胞外小胞であるエクソソームと、200nm超の細胞外小胞(medium/large EV;m/lEV)を同時に抽出し、液体クロマトグラフ質量分析計を用いて網羅的に蛋白質を解析した。すると、エクソソームとm/lEVは明らかに異なる分子を搭載していることが分かった。

 検証の結果、エクソソームはm/lEVよりもHGSOCに特異的な膜蛋白質が高発現しており、バイオマーカーの標的として有望であることが示唆された。さらに、免疫ブロット法によりエクソソームにおいてHGSOCに強く関連する膜蛋白質としてFRα、Claudin-3、TACSTD2が同定された。

エクソソーム分離方法としてポリケトン鎖修飾ナノワイヤを開発

 横井氏らはさらに、エクソソームを捕捉する手法として、血清や腹水からエクソソームを簡易に分離できるポリケトン鎖修飾ナノワイヤ(polyketone nanowire;pNW)を開発。また、pNWを用いた卵巣がん患者のエクソソーム解析結果から、同定した3つの膜蛋白質がそれぞれHGSOCの診断および予後予測のバイオマーカーとして有用であることが示された。

 以上を踏まえ、同氏らは「細胞外小胞のバイオマーカーとしての実用化における課題であった前述の①〜③について、一定の回答を提示することができた。今後さらなる検討を行うことで、卵巣がんエクソソームによるバイオマーカーの実現が期待される」と展望している。

(編集部)