久留米大学内科学呼吸器神経膠原病内科部門准教授の東公一氏らと神奈川県立がんセンター、横浜市立大学、味の素の共同研究グループは、治療前の血中サイトカインプロファイルについて、機械学習の手法を用い遺伝子発現変化(シグネチャー)を探索。進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療効果を高精度に予測できるモデルを構築したとJ Immunother Cancer2023;11:e006788)に発表した。

現行法は病理学歴手法を用いて効果を予測

 近年、さまざまながんの治療に抗PD-1/PD-L1抗体などのICIが使用されている。しかし、患者により有効性が異なる、重篤な有害事象を合併するリスクがある、費用が高額であることなどから、ICIの治療効果が期待できる症例を事前に予測して薬剤を選択する個別化医療の必要性が指摘されている。

 現在は腫瘍組織を採取し、PD-1/PD-L1の発現状況や遺伝子変異の数を調べる病理学的手法を用いて効果予測を行っている。しかし、この手法の臨床的な評価は定まっておらず、侵襲性の高さから末梢血を用いて効果を予測するバイオマーカーの開発が待たれている。

 そこで東氏らは今回、機械学習の手法を用いて、患者の末梢血から免疫治療の有効性と関わるサイトカインを抽出。サイトカインのシグネチャーにより抗PD-1/PD-L1抗体の治療効果を予測できるモデルの構築に着手した。

臨床応用で個別化がん免疫治療に期待

 対象は抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)/抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ)の単剤療法、または化学療法との併用療法を受けたNSCLCの患者222例(探索コホート123例、検証コホート99例)。開始前と治療開始から6週後に末梢血を採取し、93の血中サイトカイン濃度を測定した

 機械学習のアルゴリズムRandom Survival Forestを用いて各サイトカインの全生存(OS)の予測における重要度を調べた結果、14種のサイトカインを抽出した。これらのサイトカインを統合して免疫治療の効果予測モデルpreCIRI14を開発、予測リスクスコアを算出して患者を層別化したところ、OS中央値は予測予後不良群の161日に対し予測予後良好群では682日と有意差が認められた(ハザード比0.274、95%CI 0.150~0.501。P<0.0001、図1)。

図1.PreCIRI14によるOS予測能

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 次に、予測リスクスコアと重要サイトカイン14種との相関を調べた結果、ほとんどのサイトカインが予測リスクスコアと正の相関を示し、予後不良群で血中濃度が高い傾向が認められた(図2)。

図2.予測リスクスコアと重要サイトカインの相関

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 さらにpreCIRI14の予測精度を高めるため、入手可能な7つの臨床情報(年齢、性、病期、BMI、血漿アルブミン濃度、好中球・リンパ球数比、腫瘍細胞におけるPD-L1発現)を組み込んだモデルとしてpreCIRI21を構築した。精度を検証した結果サイトカインのシグネチャーと臨床情報が組み合わさることで、予測能が向上した(ハザード比0.141、95%CI 0.073~0.273、P<0.0001、図3)。

図3.PreCIRI21によるOSの予測能

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(図1~3とも久留米大学プレスリリースより)

 末梢血サイトカインシグネチャーがICIの治療効果を予測するバイオマーカーとして臨床応用されれば、個別化がん免疫治療が可能となることが期待される。東氏らは「効果が高い患者の同定だけでなく、有害事象の回避にもつながる」と展望している。

服部美咲