発達障害と睡眠障害は合併が多く、両者は生物学的にも心理・行動的にも関連している。しかし、診断が難しいために、適切な治療が行われていないことが問題となっている。慶應義塾大学精神・神経科学教室の和田真孝氏は、発達障害患者における睡眠障害、特に過眠症と概日リズム障害の特徴および治療法を第119回日本精神神経学会(6月22~24日)で解説。有効な可能性のある薬物療法についても付言した。

睡眠パターンは睡眠日誌で把握を

 睡眠障害を診療するには、まず患者の睡眠状況を把握することが重要で、ツールとして睡眠日誌が有効だ。和田氏は「一緒くたに"不眠"と診断するのではなく、睡眠パターンからどの睡眠障害かを見極めるのが望ましい」と述べた。

 発達障害に合併する睡眠障害には、生物学的要因と心理・行動的要因が大きく関連する。例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD)患者で概日リズム睡眠障害を伴う場合は、PeriodNPAS2などの時計遺伝子の異常が潜んでいる可能性がある。加えて、日中にメラトニン代謝産物が増加し、夜間に低下するという逆分泌パターンを取るメラトニン分泌の異常といった生物学的要因、光への曝露低下による同調因子の減弱や興味・関心の対象への没頭といった心理・行動的要因が考えられる。

 また注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者は過眠症合併例が極めて多く、約4割が過眠症の基準を満たすとの報告もある(J Atten Disord 2020; 124: 555-564)が、これにはドパミン代謝の異常という生物学的要因が関連している。ADHDにおける概日リズム睡眠障害の要因はASDと類似しており、同調因子の減弱や過集中といった心理・行動的要因が背景にあるという。

ADHD患者の過眠症治療にアトモキセチンが有効な可能性

 それでは、これらをどのように治療していくのか。

 まず和田氏は、ADHD患者における過眠症の治療法を解説した。主な薬物療法は、ドパミン刺激薬メチルフェニデート、精神刺激薬モダフィニル、ぺモリンがある。これらに加え、同氏は「選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のアトモキセチン投与もADHD患者の過眠症に有効な可能性がある」と述べた。ただし、過眠特性のないADHD患者への投与では逆に眠気を誘発する場合もある。また過眠症合併例はメチルフェニデートの投与により、疲労感が出たり、副作用により使用できなかったりすることもあるが、その場合はアトモキセチンが有効なケースがあるという。

 実際にアトモキセチン40mgの1日3回4週間投与でナルコレプシー症状が改善したとの報告もあり(Sleep 2005; 28: 1189)、プラクティカルガイドでも紹介されている(Neurotherapeutics 2012; 9: 739-752)。ただし、臨床試験において睡眠障害に対するアトモキセチンの有効性はまだ認められていない。同氏は「必ずしも有効であるとはいえないが、アトモキセチンは副作用が少なく使いやすいという実感がある。ドパミン刺激薬、精神刺激薬に加えて選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の投与も把握しておくことで、副作用や薬物依存の回避につながるのではないか」と私見を述べた。

 続いて同氏は、発達障害に合併する概日リズム障害について説明した。概日リズム障害例の多くは「眠れない」という主訴で受診する。不眠症と診断されて睡眠薬を処方されるケースは少なくないが、概日リズム障害は眠れない疾患ではなく「朝起床できない」疾患である。そのため睡眠薬の処方では、かえって概日リズムが崩れる恐れがある。

 同氏は「患者から不眠だという主訴があっても、本当に不眠症なのかを疑うこと。概日リズムに問題があれば、覚醒させる治療を考えるのも1つの案だ」と述べた。

概日リズム障害の治療では、量よりタイミングが重要

 では、覚醒させる治療はどのように実施するのか。和田氏は、鍵となるのは光の浴び方とメラトニン受容体作動薬の使い方であると指摘。メラトニンは、催眠作用のあるMT1受容体と概日リズムの位相変位作用のあるMT2受容体を介した効果が知られている。MT1受容体は睡眠薬としてメラトニン受容体作動薬を用いるときに関与する部分で、用量依存性に作用する。MT2受容体は概日リズムを規定するため、メラトニン受容体作動薬を投与する際はタイミングが重要になる。

 ただしメラトニン受容体作動薬は投与量が多いと体内に残留するため、脳内からメラトニンが分泌される少し前のタイミングでの少量投与が効果的である。例えば、朝8時に起床したい場合は前日の19~20時の投与が望ましいChronobiol Int 1992; 9: 380-392)。同氏は「単なる睡眠薬ではなく、メラトニン受容体作動薬は概日リズムの調整としての活用も考えるべきだ」と述べた。

 メラトニン受容体作動薬ラメルテオン(1mg、2mg、4mg、8mg)の至適用量を検討したところ、1日1回4mg以下で睡眠覚醒リズムの位相前進作用が認められている(J Clin Sleep Med 2008; 4: 456-461)。同薬はMT2受容体に対する親和性が高いため、少量での効果が見込まれる。同氏は「概日リズム障害に対してはラメルテオンを、15歳以下の場合はメラトニンを、就寝よりも早いタイミングで少量投与することで高い効果が得られる可能性がある」と述べた。

 なお、ラメルテオン以外にもドパミン受容体部分作動薬アリピプラゾールの少量投与で位相前進作用が認められたとの報告がある(Neuropsychiatr Dis Treat 2018; 14: 1281-1286)。同氏は「ADHD患者における概日リズム障害に対し、①ラメルテオン4mg、②アリピプラゾール1mg、③アトモキセチン5mg-のいずれかの就寝前投与により、朝起床できるようになる場合がある。一般的な不眠症に対する処方とは大幅に異なるが、発達障害に合併する概日リズム障害においては比較的頻度が高い処方だ。ぜひ参考にしていただきたい」とまとめた。

(渡邊由貴)