米・University of Utah School of MedicineのCatherine G. Derington氏らは、同国で運用されている抗凝固療法管理戦略(anticoagulation management strategies;AMS)を3つのモデルに分類し、米カイザー・パーマネンテ(KP)のデータを用いて後ろ向きに検討。「いずれのモデルでもワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)使用による有害転帰発生リスクに差は見られなかった」とJAMA Netw Open(2023; 6: e2321971)に報告した。

3つの地域のDOAC管理モデルを比較

 過去10年間、抗凝固療法の適正使用支援(anticoagulation stewardship)に関する議論が続いているが、重大な有害事象を減らすにはDOACに関しても適正使用支援プログラム(DOAC stewardship program)が必要であるかについて満足のいく答えはまだ出ていない。

 そこでDerington氏らは、KPのデータを用いて2016年8月1日~19年12月31日に米国の3つの地域(北西部、南カリフォルニア、コロラド)で心房細動(AF)と診断され、経口抗凝固薬(ワルファリンまたはDOAC)を開始した成人患者4万4,746例のデータを解析した。ワルファリン投与時のAMSは各地域で同じだったが、DOACに関しては、①通常ケア(UC)、②UC+自動人口管理ツール(PMT)、③薬剤師主導AMS―という3つの異なるモデルを採用していた。

 UCモデルとはシステム化されたDOAC管理サービスのない通常ケア、UC+PMTモデルはUCに加え、抗凝固薬管理に関する特別なトレーニングを受けた薬剤師が毎週電子医療記録にPMTから届くレポートに基づきDOACに関連した問題が生じている可能性のある患者を同定するアプローチ、薬剤師主導AMSモデルでは、事前に患者を登録し、DOAC処方の最初から薬剤師が管理した。

 患者データの追跡は有害転帰(血栓塞栓性の脳卒中脳内出血、その他の大出血あるいは死亡の複合)が発生した時点まで、KP脱会まで、あるいは、2020年12月31日まで行った。

DOACでは適正使用支援プログラムは不要か?

 4万4,746例のうちUCモデル群は6,182例(DOAC 3,297例、ワルファリン2,885例)、UC+PMTモデル群は3万3,625例(同2万1,891例、1万1,734例)、薬剤師主導AMSモデル群は4,939例(同2,089例、2,850例)だった。逆確率重み付け(inverse probability of treatment weight;IPTW)後の患者背景(年齢、男性割合、非ヒスパニック系白人の割合、CHA2DS2VASCスコア、糖尿病脳卒中・血管疾患既往歴など)は各群でバランスが取れていた。

 追跡期間の中央値は2年。複合転帰の年間発生率はUCモデル群のDOAC服用例で5.4%、ワルファリン服用例9.1%、UC+PMTモデル群ではそれぞれ6.1%、10.5%、薬剤師主導AMSモデル群では5.1%と8.0%。

 各モデル群におけるワルファリンに対するDOACのIPTW調整後の複合転帰ハザード比(HR)はUCモデル群0.91(95%CI 0.79~1.05)、UC+PMTモデル群0.85 (同0.79~0.90) 、薬剤師主導AMSモデル群0.84 (同0.72~0.99)だった(各モデル群間の異質性検定のP=0.62)。

 一方、各モデル群のDOAC服用例を直接比較したところ、IPTW調整後のHRは、UC+PMTモデル群 vs. UCモデル群で1.06(95%CI 0.85~1.34)、薬剤師主導AMSモデル群 vs. UC群で0.85(同0.71~1.02)だった。

 以上の結果を踏まえDerington氏らは「今回の研究の目的は、DOAC適正使用支援プログラムにより抗凝固薬に関連する有害事象が減るかどうか、また、どのモデルが最も有効かを明らかにすることであった」と指摘。「DOACとワルファリンの比較では、UC+PMTモデル群と薬剤師主導AMSモデル群で、DOACの方が複合転帰発生のリスクが小さかったが、DOACの有害転帰に関する直接比較では、3つのモデル間での明らかな差は見られなかった」と結んでいる。

木本 治