コレラ感染が拡大する中東のイエメンから6月に帰国したばかりの国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」前現地活動責任者、村田慎二郎さん(40)が「戦争の犠牲者は戦闘で死亡した人たちだけではない」と訴えている。内戦で医療制度が崩壊したイエメンでは「治療も予防も本当なら簡単」なはずのコレラで次々命を落とす。さらに「がん、エイズウイルス(HIV)感染、人工透析の患者も戦争の中で消えていっている」と厳しい現実を振り返った。
 三重県出身の村田さんは静岡大を卒業後、東京で外資系企業の営業マンになったが、30歳を前に「人生は一度きり。冒険を」と一念発起。MSFの門をたたいた。2005年のスーダン西部ダルフール地方をはじめ、シリアや南スーダンなど紛争地での活動を重ねてきた。今年1月からのイエメンでは、首都サヌアを拠点に、医療現場の安全を確保し、支援対象地を拡大するため紛争当事者たちとの交渉を担ってきた。
 サヌアは現在、イランが背後で支えるとされるイスラム教シーア派系武装組織フーシ派が支配する。サウジアラビア主導の連合軍の空爆が「2、3日に1回、特に夜、行われて、最初はちょっと嫌だった」が、時間の経過とともに「あ、また来た」となっていく。外国人を狙った誘拐の心配が常に存在し、サヌアでも気楽な外出はままならないが「自分の安全ももちろんだが、スタッフ、患者の安全確保が大事で、慎重になり過ぎて亀のようになっていても必要としている人に援助を届けられない」ため、サヌアを離れ、滞在期間の3分の1程度は全土に散らばる支援の現場を回る日々だった。
 コレラ感染で最初に異変を感じたのは3月末。「最初の患者の検査結果がまだ出ていないのに4月に入り10カ所以上から患者が搬送されてきた。それが数件、数十件、数百件という具合に増えていった」と振り返る。患者には子供に加え女性が目立つ。コレラ菌に汚染された水を口から体内に取り込み感染が広がっていると考えられ「料理や洗濯で水に触れる機会が多いからではないか」と考えた。
 国連によると、コレラによるイエメンの今年の死者数は1700人を超えた。村田さんは「イエメンの7、8月は雨期。保健省は昨年9月から職員の給料の支払いが止まっていて、衛生面は劣悪。楽観できる状況ではない」と泥水の現地を思いやった。「MSFで100カ月以上、紛争地に派遣されてきた。戦争をやめてほしいと言っても、少し空虚に聞こえてしまうから言いたくないが、それができないなら、せめて安全に援助活動できる環境がほしい」と訴えている。 (C)時事通信社