人口が13億人を超え、医療従事者の育成が急務となっているインドで、「患者第一」という日本式看護の精神を伝えようと2人の日本人看護師が活動している。根強く残る身分制度など、文化の壁に悩みつつ、「価値観を共有し、議論を深めることで互いの優れた点を生かしていきたい」と奮闘する。
 2人は、現地看護師のキャリア形成に取り組む天瀬さつきさん(52)=神戸市出身=と、実際に現場で指導に当たる村井沙織さん(31)=札幌市出身=。日本国内でセキュリティー会社、セコムの医療関連会社が提携する病院での勤務を経て、同社がインド南部ベンガルールに開設した病院で昨年4月から勤務している。
 インドでは憲法で廃止されたはずの身分制度カースト制の影響が根強く残る。天瀬さんは「日本では、入院患者の靴が散らかっていると靴を履く時に転倒の危険があるので、気付いた看護師がそろえる。でも、ここでは『床にあるものを触るのは下層の人』という考えがあり、そのままになっていた」と回想する。日本では当然の「患者第一」という考え方が通用しなかった。
 一方、「最初はできないところを探す視点だったが、悪気があってやらないわけではないと知り、次第に日本のやり方だけが正しいのではないと気付いた」(村井さん)という。文化を変えてもいいのかという葛藤に悩みつつ、「患者の安全と安心を確保できるならどんな形でもいい」(天瀬さん)と考えるようになった。
 天瀬さんは「『日本人が言ったからやらないと』ではなく、何が大事なのかを伝え、(現地に)落とし込んでいくことが大切」と語る。村井さんも「安全や患者への最低限のマナーなど、見失ってはいけないことはある」とくぎを刺しつつ、現地看護師と話し合い、柔軟に対応していくことが重要と強調した。 (C)時事通信社