東京都文京区にあるスープカフェ「Sign with Me(サイン・ウィズ・ミー)」では、耳の聞こえない「ろう者」の店員が主に手話と筆談で客とのコミュニケーションを取る。店内の壁一面に掛かったホワイトボードには「手話を上達させて必ずまた来ます」など100を超えるメッセージが寄せられ、近所の大学生や常連客の憩いの場となっている。
 オーナーで自身もろう者の柳匡裕さん(44)が最初の店をオープンしたのは2011年12月。民間企業などに勤務していたこともあるが、当時から「ろう者の職場定着率が悪い」と感じていた。転職先で経験が生かせない部署に配属され、「使えない」と言われたことも。ろう者を受け入れる「入り口」はあっても、入ってから力を発揮できる環境が整っていないことを痛感した。
 起業のヒントになったのはあるインド料理店。外国人の店員を相手に、指で料理の写真をさすとスムーズに注文できた。「言葉が通じなくてもビジネスは成立する」。障害者が障害者を雇用することで働ける仕事の幅を広げ、そのことを広く発信しようと決めた。
 活動を知ってもらうため、最初の店は多くの人材を輩出する東京大の近くに開いた。昨年4月には近くに2号店をオープンするなど、経営は順調だ。客は料理の写真を指さしてオーダーし、それ以外のやりとりは手話や筆談、身ぶりで行う。
 アルバイトの大学生綿引宏さん(23)は、取材に「手話に自信がなかったけど、使っているうちにうまくなってお客さんに褒められた。卒業後もここで働きたい」と筆談で応じ、笑顔を見せた。初めて来店したという大学1年の上野尚輝さんは「料理もおいしく、とても居心地がいい」と話し、友人らと食事を楽しんだ。
 柳さんは「まずは自分たちの存在を知ってもらい、将来的にはもっと店舗を増やして雇用の場をたくさんつくりたい」と意気込んだ。 (C)時事通信社