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生殖補助医療により生まれた子どもの神経発達について

国立大学法人千葉大学
~約78,000組の親子のデータを解析~子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

 エコチル調査千葉ユニットセンター・千葉大学予防医学センターの山本緑助教、森千里教授、エコチル調査の協力医療機関みやけウィメンズクリニックの三宅崇雄氏らの共同研究チームは、エコチル調査の母子のデータを用いて、生殖補助医療により生まれた子どもの3歳時点の神経発達について解析を行いました。その結果、生殖補助医療やその他の不妊治療により生まれた子どもは、自然妊娠により生まれた子どもと比べて、発達の遅れの頻度が高くなっていましたが、ほとんどの場合、生殖補助医療技術そのものに起因するのではなく、両親の年齢など不妊にかかわる要因と多胎妊娠(双子や三つ子)が関係している可能性が示されました。  本研究の成果は、令和4年4月12日付で学術誌” Reproductive Medicine and Biology”に掲載されました。



発表のポイント

1.エコチル調査に参加している約78,000組の子どもと母親のデータを解析した。

2.生殖補助医療(体外受精または顕微授精)により生まれた子ども、その他の不妊治療(排卵誘発・人工授精)により生まれた子ども、自然妊娠で生まれた子どもについて、3歳時点の神経発達を比較した。

3.体外受精、顕微授精、その他の不妊治療により生まれた子どもは、自然妊娠で生まれた子どもと比べて、3歳時点で発達の遅れの頻度が高かった。

4.多胎妊娠を除外し、両親の年齢など不妊に関係する要因の影響を取り除いて解析を行った場合、体外受精、顕微授精、その他の不妊治療により生まれた子どもは、自然妊娠で生まれた子どもと比べて、発達の遅れのリスク増加は認められなかった。

5.体外受精、顕微授精のうち、凍結胚移植、胚盤胞移植により生まれた子どもは、自然妊娠で生まれた子どもと比べて、発達の遅れのリスク増加は認められなかった。

研究の背景




 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(集団調査)です。
 不妊症の治療法には、排卵誘発や人工授精を行う一般の不妊治療と、それでは妊娠が得られない場合に用いられる生殖補助医療(体外受精と顕微授精)があります。
 1978年に世界で初めて体外受精による赤ちゃんが生まれて以来、日本では出産年齢の高齢化とともに、生殖補助医療を利用する人が増えています。



研究内容と成果

 本研究では生殖補助医療により生まれた子どもの精神神経発達について調べるため、エコチル調査に参加している子どもと母親のデータを利用し、体外受精、顕微授精、その他の不妊治療(排卵誘発・人工授精)により生まれた子どもと、自然妊娠で生まれた子どもについて、日本語版のASQ-3注)という質問票を用いて3歳時点の神経発達の遅れの頻度を比較しました(体外受精で生まれた子ども1,391人、顕微授精で生まれた子ども1,542人、その他の不妊治療で生まれた子ども4,071人、自然妊娠で生まれた子ども70,924人)。

  注)ASQ-3
    ASQ-3は「コミュニケーション(言葉の理解や話すこと)」「粗大運動(腕や足など大きな筋肉を使う動   
   き)」「微細運動(手指の細かい動き)」「問題解決(手順を考えて行動するなど)」「個人と社会(他人
   とのやり取りに関する行動など)」という5つの領域について、保護者の回答をもとに子どもの発達を評価
   する指標です。基準値は年齢と領域により異なり、3歳では、60点満点中27.91点~39.26点以下が発達の
   遅れが疑われるラインとなっています。

1)親の背景の比較
 生殖補助医療(体外受精、顕微授精)、および生殖補助医療以外の不妊治療により妊娠したグループは、自然妊娠のグループよりも、母親と父親の年齢が高く、多胎妊娠、早産(妊娠37週未満の出産)、帝王切開、新生児の低出生体重(出生時の体重2,500g未満)の割合が高い傾向にありました。

2)不妊治療別に見た子どもの発達の遅れの頻度
 発達の遅れが疑われる子どもの割合を自然妊娠と体外受精、顕微授精および生殖補助医療以外の不妊治療により妊娠したグループで単純に比較した場合、生殖補助医療(体外受精や顕微授精)に限らず、排卵誘発や人工授精を行う不妊治療でも、発達の遅れが疑われる子どもが多いことが示されました。(参考図A)
 親の背景(年齢、出産経験、社会経済状況、基礎疾患など)と子どもの性別の影響を取り除いて解析を行うと、不妊治療と自然妊娠との差は少なくなり、さらに妊娠合併症(糖尿病・妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群)と胎児の発育不良の影響を取り除いて解析を行うと、体外受精グループも自然妊娠との差はなくなりました。
 単胎児(双子や三つ子ではない子ども)のみを対象として、親の背景と子どもの性別の影響を取り除いた解析を行うと、体外受精、顕微授精、他の不妊治療のいずれのグループも、自然妊娠との差は見られなくなりました。(参考図B)
 これらの結果から、生殖補助医療や他の不妊治療では、子どもの発達の遅れがやや多く見られましたが、体外受精、顕微授精という治療技術そのものが原因とは言えず、主に、親の年齢など不妊にかかわる要因と多胎妊娠が関係している可能性が示されました。





3)胚の移植方法別に見た子どもの発達の遅れの頻度生殖補助医療で胚を子宮に戻す方法により、子どもの神経発達に違いがあるかを調べるため、凍結胚移植、胚盤胞移植(新鮮または凍結)により生まれた子どもと、自然妊娠で生まれた子どもの発達を比較した結果、凍結胚移植や胚盤胞移植と自然妊娠との間で、子どもの発達の遅れの頻度の差は見られませんでした。


考察と今後の展開

 生殖補助医療による妊娠は、自然妊娠と比べて、単胎児でも妊娠合併症や新生児の予後不良が多いことから、多胎妊娠だけでなく、不妊と関連した身体的な状態が要因となっている可能性が指摘されています。

 本研究の結果、生殖補助医療では自然妊娠と比べて子どもの発達の遅れが増加していましたが、これは、体外受精、顕微授精、凍結胚移植、胚盤胞移植といった技術そのものに起因するとは言えず、主に、親の年齢など不妊にかかわる要因と多胎妊娠、およびそれによって生じる妊娠合併症や母体内での胎児の発育不全に起因する可能性が示されました。今後は、加齢による妊孕性(妊娠する能力)の低下や妊娠・分娩に伴うリスク増加について人々の理解を深めてもらうことや、保育施設や育児休暇取得制度の充実など子育てしやすい社会をつくり、妊娠適齢期で妊娠・出産しやすい環境を整えることが、子どもたちの健全な発達につながると考えられます。
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