医療・医薬・福祉

スマートフォンアプリケーションによるドライアイ診断補助の信頼性と妥当性を検証

学校法人 順天堂
~ スマートフォンアプリ「ドライアイリズム(R)」を用いた臨床研究 ~

順天堂大学大学院医学研究科眼科学の村上 晶 特任教授、猪俣 武範 准教授らの研究グループは、ドライアイ研究用スマートフォンアプリケーション(以下、スマホアプリ)「ドライアイリズム(R)※1」を用いて、ドライアイリズム(R)で収集したドライアイ疾患特異的質問紙票ならびに最大開瞼時間※2の信頼性および妥当性を検証し、ドライアイリズム(R)のドライアイ診断精度を調査しました。スマホアプリによって非接触・非侵襲的にドライアイの診断補助が可能となれば、ドライアイ患者の早期診断、早期治療につながる可能性があります。本研究は眼科学雑誌The Ocular Surface (2022年7月1日付)の掲載誌に掲載されました。


本研究成果のポイント


82名(うちドライアイ患者42名)を対象に、臨床所見とスマホアプリ「ドライアイリズム(R) 」で収集したデータを比較し、ドライアイリズム(R)で収集したデータの信頼性と妥当性を明らかにした。
ドライアイリズム(R)によるドライアイ診断結果と、ドライアイ診断基準に則った診断結果とを比較したところ、ドライアイリズム(R)によるドライアイ診断精度は感度71.4%、特異度87.5%であった。
今後、スマホアプリを用いて非接触・非侵襲的にドライアイ診断補助が可能となれば、ドライアイの早期診断、早期治療につながる可能性がある。


背景
ドライアイは本邦で2,000万人以上が罹患する最も多い眼疾患であり、超高齢社会およびウィズ・アフターコロナで助長されるデジタル社会において今後も増加が予想されています。また、ドライアイによる自覚症状は、乾燥感のみならず、羞明(まぶしさ)、眼精疲労、視力低下等多岐にわたるため、不定愁訴とされ治療が行われないまま見逃される場合もあることをこれまでの当グループの研究により明らかにしてきました(JAMA Ophthalmology 2019)。ドライアイの症状は視覚の質や労働生産性の低下につながり、経済的損失への影響もあるため早期発見や早期治療が重要となります。
本邦におけるドライアイの診断基準は、「眼不快感・視機能異常などの自覚症状を有し、涙液層破壊時間※3が5秒以下に低下していること」と定義されています。この涙液層破壊時間の測定は患者の眼表面をフルオレセインで染色し、細隙灯顕微鏡※4で観察する生体染色検査を実施するため、患者への侵襲・接触を伴います。近年はCOVID-19の蔓延により、非侵襲・非接触的な検査法が求められています。また、遠隔診療・オンライン診療では、細隙灯顕微鏡による涙液層破壊時間の測定ができず、定量的な検査方法が存在しません。
そこで、当研究グループではスマホアプリ「ドライアイリズム(R)」(図1)を開発し、非侵襲・非接触的な最大開瞼時間と疾患特異的な質問紙票の組み合わせによるドライアイ簡易検査方法の開発を行ってきました(特願 2020-162122)。本研究では、このドライアイリズム(R)によって収集したデータの信頼性、妥当性および、ドライアイリズム(R)によるドライアイ診断精度の検証を行いました。

内容
今回の研究では、対象期間中(2020年7月~2021年5月)に順天堂大学医学部附属順天堂医院の眼科外来を受診し、研究同意が得られた20歳以上の患者82名を対象としました。ドライアイ疾患特異的質問紙票および最大開瞼時間を含むドライアイ検査を行ない、さらにドライアイリズム(R)によるドライアイ疾患特異的質問紙票および最大開瞼時間(図2)を測定し、収集したデータの比較を行いました。
収集したデータを解析したところ、82名の研究参加者のうち、42名がドライアイ患者でした。ドライアイリズム(R) で収集したドライアイ疾患特異的質問紙票は良好な内部一貫性を示しました )(Cronbach‘sα=0.874)。
図1: ドライアイリズム(R)
図2: ドライアイリズム(R)による 最大開瞼時間測定 (イメージ図)
ドライアイ疾患特異的質問紙票の結果に関する測定結果の相関及び一致性に関しては、紙およびドライアイリズム(R)の測定結果の間に有意な正の相関を認め(Pearson相関分析、 r=0.891、P<0.001) (図3A)、Bland-Altman分析による一致性の評価では、紙による測定結果に対するドライアイリズム(R)による測定結果のバイアスは3.95点(95%許容範囲: -13.8から21.7)(図3B)でした。


図3: 紙およびドライアイリズム(R)による疾患特異的質問紙票の測定結果の相関および一致性
(A) 紙およびドライアイリズム(R)による測定結果の間のPearson相関分析。
(B) 紙およびドライアイリズム(R)による測定結果の一致性の評価。 x軸は2つの測定結果の平均値、y軸は2つの測定結果の差を示している。

さらに、最大開瞼時間の測定結果に関する相関及び一致性に関しては、細隙灯顕微鏡およびドライアイリズム(R)による測定結果の間に有意な正の相関を認め(Pearson相関分析、 r=0.329、P=0.003) (図4A)、Bland-Altman分析による一致性の評価では、細隙灯顕微鏡による測定結果に対するドライアイリズム(R)による測定結果のバイアスは-3.62秒(95%許容範囲: -13.8から21.7)(図4B)でした。

図4: 紙およびドライアイリズム(R)による最大開瞼時間の測定結果の相関および一致性
(A) 細隙灯顕微鏡およびドライアイリズム(R)による測定結果の間のPearson相関分析。
(B) 細隙灯顕微鏡およびドライアイリズム(R)による測定結果の一致性の評価。 x軸は2つの測定結果の平均値、y軸は2つの測定結果の差を示している。

そして、本邦の診断基準に則ったドライアイ診断に対するドライアイリズム(R)のドライアイ診断精度はReceiver Operating Characteristic(ROC)解析によるROC曲線下面積が0.910であり、最大開瞼時間のカットオフ値を21.4秒とした場合、感度71.4%、特異度87.5%という精度を認めました(図5)。

図5: ドライアイリズム(R)のドライアイ診断精度
ROC解析によるドライアイリズム(R)のドライアイ診断精度は、ROC曲線下面積が0.910であり、最大開瞼時間の最適なカットオフ値は21.4秒で、その際の診断精度は感度71.4%、特異度87.5%であった。

以上の結果から、ドライアイリズム(R)はドライアイを評価するための信頼性の高い有用な手段であるとともに、ドライアイの診断補助を行うための新たな非侵襲・非接触的な手段となりうることが示唆されました。

今後の展開
本研究では、スマホアプリ「ドライアイリズム(R)」で収集したデータの信頼性・妥当性を示し、さらにドライアイリズム(R)による良好なドライアイ診断精度を示すことに成功しました。スマホアプリによって非接触・非侵襲的にドライアイの診断補助が可能となれば、ドライアイ患者の早期診断、早期治療や遠隔診療やオンライン診療でのドライアイ診療の橋渡しとなる可能性があります。本研究は順天堂大学医学部附属順天堂医院を受診した患者による単施設での研究だったため、今後は多機関での共同研究を実施を予定しています。将来的にはドライアイ診断用スマホアプリの医療機器承認および保険償還の目指し、眼科クリニックや病院での実用化による社会実装を行います。

用語解説
*1 ドライアイリズム(R) : 2016年10月に順天堂大学医学部眼科学講座(研究代表者: 猪俣武範)が開発したドライアイ研究のためのスマートフォンアプリケーション。ドライアイの症状、瞬目(まばたき)の計測が可能で、QoLや労働生産性への影響などの評価ができる。なお、ドライアイリズム(R)の商標は順天堂大学発ベンチャーであるInnoJin株式会社が保有します。
*2 最大開瞼時間: できるだけ開瞼を保持し、眼不快感が生じて閉瞼するまでの時間(秒)を指す。
*3 涙液層破壊時間: 開瞼後に涙の膜が破壊されるまでの時間(秒)を指す。涙液をフルオレセイン染色紙で染色し可視化したうえで細隙灯顕微鏡下で測定する。
*4 細隙灯顕微鏡: 眼科医が眼を観察する際に用いる検査装置を指す。細い帯状の光を眼球に当て、結膜、角膜や水晶体など眼の各部位を顕微鏡で拡大して観察する。

原著論文
本研究は眼科学雑誌The Ocular Surface 誌に掲載(2022年7月1日付)されました。
タイトル: 「 DryEyeRhythm: A reliable and valid smartphone application for the diagnosis assistance of dry eye」
タイトル(日本語訳) : スマートフォンアプリケーション「ドライアイリズム(R)」のドライアイ診断補助における信頼性と妥当性の検証
著者: Okumura Y1, Inomata T1, Midorikawa-Inomata A1, Sung J1, Fujio K1, Akasaki Y1, Nakamura M2, Iwagami M3, Fujimoto K1, Eguchi A1, Miura M1, Nagino K1, Hirosawa K1, Tianxiang H1, Kuwahara M1, Dana R4, Murakami A1
著者(日本語表記): 奥村雄一1、猪俣武範1、猪俣緑川明恵1、Sung Jaemyoung1、藤尾謙太1、赤崎安序1、中村正裕2、岩上将夫3、藤本啓一1、江口敦子1、三浦真里亜1、梛野 健1、廣澤邦彦1、黄 天翔1、桑原 瑞1、Dana Reza 4、村上晶1
著者所属: 順天堂大学1 、東京大学2、筑波大学3、ハーバード大学4
掲載誌: The Ocular Surface
掲載論文のリンク先: https://www.clinicalkey.jp/#!/content/playContent/1-s2.0-S1542012422000337?returnurl=https:%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS1542012422000337%3Fshowall%3Dtrue&referrer=https:%2F%2Fpubmed.ncbi.nlm.nih.gov%2F
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jtos.2022.04.005

協賛および研究助成金
本研究は、株式会社シード、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社、HOYA株式会社、わかもと製薬株式会社、ジョンソンエンドジョンソン株式会社、InnoJin株式会社の助成を受け実施されました。また、公益財団法人一般医薬品セルフメディケーション振興財団令和3年度研究助成、JST COIプログラム(JPMJCER02WD02)、JSPS科研費(JP20K23168、JP21K17311)を受けました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。
本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします。
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