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アトピー性皮膚炎の炎症を軽減する抗菌ペプチドを確認

学校法人 順天堂
―オートファジーを利用したアトピー性皮膚炎の治療法開発に向けて―

順天堂大学大学院医科研究科皮膚科学・アレルギー学の彭戈大学院生、池田志斈教授、アトピー疾患研究センター・国際教養学部の二ヨンサバ フランソワ教授、および器官・細胞生理学の小松雅明教授らの研究グループは、抗菌ペプチドであるヒトβ-ディフェンシン-3(*1)が表皮角化細胞のオートファジー(*2)を活性化させ、アトピー性皮膚炎(*3)における皮膚バリア機能の向上と炎症制御の調節に関与することを初めて解明しました。


これまでオートファジーにおけるヒトβ-ディフェンシン-3の調節作用は不明であり、アトピー性皮膚炎の皮膚バリアにおけるオートファジーの調節機能も分かっていませんでした。研究グループは抗菌ペプチドであるヒトβ‐ディフェンシン-3がオートファジーを活性化させ、それによって皮膚バリア機能が向上し、その結果アトピー性皮膚炎の症状が改善されることを発見しました。本研究はアトピー性皮膚炎におけるオートファジーの作用メカニズムを明らかにするとともに、アトピー性皮膚炎治療におけるヒトβ-ディフェンシン-3の臨床的な意義を提示しました。本論文はJournal of Clinical Investigation誌のオンライン版に2022年9月1日付で公開されました。

本研究成果のポイント


アトピー性皮膚炎の新たな発症メカニズムを明らかにした
アトピー性皮膚炎の新たな発症メカニズムを明らかにしたヒトβ-ディフェンシン-3によってオートファジーが活性化し、アトピー性皮膚炎の炎症が軽減することを明らかにした
ヒトβ-ディフェンシン-3投与によるアトピー性皮膚炎の新規治療法開発の可能性


背景
日本を含む先進国には2億人以上のアトピー性皮膚炎患者がおり、激しい痒みや外見の変化が引き起こす苦悩によって日常生活に支障をきたしたり、精神的負担が生じたりしています。それらを軽減するためには、発症と病勢の推移の詳細な解明、より有効な治療法の開発が必要です。一方、医学の領域においては、細胞内の自己成分をリソソームで分解する細胞の機能「オートファジー」が、神経変性疾患やがん、各種の炎症など、様々な疾患と関連していることが明らかになっており、病因の解明や標的治療法の開発に繋げようとする研究が盛んに行われています。また近年は、皮膚の分化促進や恒常性維持におけるオートファジーの重要性が示唆されています。今回、研究グループはアトピー性皮膚炎に対するオートファジーを駆使した新たな治療法の開発を目的に、抗菌ペプチドであるヒトβ‐ディフェンシン-3に着目し、ヒトβ‐ディフェンシン-3がオートファジーにおいてどのように作用するのか、また皮膚バリア機能の向上にどのように関与するのかを調べる研究を行いました。

内容
本研究では、アトピー性皮膚炎患者の皮膚病変部を収集して、アトピー性皮膚炎マウスモデルを作製し、ヒト表皮角化細胞を培養した後、ウエスタンブロットという方法を用いて、LC3やp62などのオートファジーマーカーの発現、タイトジャンクション(*4)関連タンパク質および表皮角化細胞のシグナル伝達経路を評価しました。オートファゴソーム/オートリソソームの形成とタイトジャンクション関連タンパク質の分布は、蛍光抗体法と電子顕微鏡を使用して評価しました。また、皮膚特異的オートファジー欠損アトピー性皮膚炎マウスと芳香族炭化水素受容体(*5)特異的拮抗薬を利用して、ヒトβ-ディフェンシン-3の治療効果およびそのメカニズムを解析しました。
解析の結果、アトピー性皮膚炎患者とアトピー性皮膚炎モデルマウスにおいて皮膚病変部のオートファジーが抑制されていることが分かりました。インターロイキン-4とインターロイキン-13(*6)はアトピー性皮膚炎の皮膚病変で大量に産生され、タイトジャンクションバリア機能を障害したり、表皮角化細胞のオートファジーを抑制する要因であると考えられていますが、ヒトβ-ディフェンシン-3を投与することで表皮角化細胞のオートファジーが活性化し(図1)、インターロイキン-4とインターロイキン-13によるタイトジャンクションバリア機能障害を回復させることができました。この過程は芳香族炭化水素受容体のシグナル経路に関与する可能性があります。オートファジーの欠損によって、皮膚バリア機能が障害され、アトピー性皮膚炎マウスの皮膚炎症は増悪しますが、ヒトβ-ディフェンシン-3はアトピー性皮膚炎マウスの皮膚炎症を軽減させ、タイトジャンクションバリア機能を強化しました。更に、皮膚特異的オートファジー欠損アトピー性皮膚炎マウスと芳香族炭化水素受容体抑制アトピー性皮膚炎マウスにおいて、ヒトβ-ディフェンシン-3を介したタイトジャンクションバリア機能の改善は認められませんでした。このことから、ヒトβ-ディフェンシン-3はオートファジーの活性化と芳香族炭化水素受容体経路を介してアトピー性皮膚炎を改善することが示唆されました。
図1:ヒトβ-ディフェンシン-3が表皮角化細胞のオートファジーを活性化させる


本研究結果から、ヒトβ-ディフェンシン-3を介したオートファジーはアトピー性皮膚炎の皮膚バリアと炎症制御の調節に重要な役割を果たしていることが示唆されました。本研究はアトピー性皮膚炎の新たなオートファジーのメカニズムを掲示し、アトピー性皮膚炎治療におけるヒトβ-ディフェンシン-3の臨床的な意義を提示しました(図2)。

図2:本研究で明らかになったヒトβ-ディフェンシン-3がアトピー性皮膚炎の症状を軽減するメカズム
今後の展開
今回、研究グループは難治疾患であるアトピー性皮膚炎の新たな発症メカニズムを解明しました。ヒトβ-ディフェンシン-3を用いてオートファジーを活性化させる治療法が、皮膚バリア障害を修復し、アトピー性皮膚炎の症状を改善することが明らかになったことから、ヒトβ-ディフェンシン-3の投与療法が新規治療法として適用されることが考えられます。研究グループはヒトβ-ディフェンシン-3の投与療法の臨床試験を開始する予定です。本治療法が適用されれば、アトピー性皮膚炎ならびにオートファジー不全と関連する他の皮膚疾患に対して、オートファジーを活用した新たな治療をもたらすことが期待されます。

用語解説
*1 ヒトβ-ディフェンシン-3: ヒトβディフェンシン-3は抗菌活性のほか、様々なサイトカインやケモカインの分泌を促進させる作用を有し、自然免疫と獲得免疫を結びつけるものとして注目されている。
*2 オートファジー: ギリシャ語のファジー(食べる)にオート(自ら)が組み合わされた造語である。 オートファジーとは、細胞内部の古くなった悪玉タンパク質が新しく作り替えられるメカニズムのことを指す。
*3 アトピー性皮膚炎: 痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎(湿疹)で、皮膚の乾燥とバリア機能異常に様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられている。
*4 タイトジャンクション:隣り合う上皮細胞や内皮細胞などの細胞間の結合および接着構造、すなわち生体内で物質(分子)の通り抜けを防いでいるバリア。
*5 芳香族炭化水素受容体:芳香族炭化水素受容体は皮膚に豊富に発現しており、活性化されると皮膚バリア機能を強化し、フィラグリン等の皮膚バリア関連タンパク質の発現を制御することにより表皮角化細胞の分化を促進する。
*6  インターロイキン-4とインターロイキン-13: アトピー性皮膚炎において複数の下流のメディエーターの産生を調節し、根底にある慢性炎症を引き起こし、アトピー性皮膚炎の炎症経路の上流において重要な役割を果たす。
*7 ホモローグ:同一の祖先種に由来する遺伝子で、類似関係にある遺伝子のこと(相同遺伝子)。

原著論文
本研究はJournal of Clinical Investigation誌のオンライン版に2022年9月1日付で公開されました。
タイトル: Human-β-defensin-3 attenuates atopic dermatitis-like inflammation through autophagy activation and the aryl hydrocarbon receptor signaling pathway
タイトル(日本語訳): ヒトβ-ディフェンシン-3はオートファジーの活性化と芳香族炭化水素受容体シグナル伝達経路を介してアトピー性皮膚炎の炎症を軽減する
著者:Ge Peng1, 2, Saya Tsukamoto1, 2, Risa Ikutama1, 2, Hai Le Thanh Nguyen1, 2, Yoshie Umehara1, Juan V. Trujillo-Paez1, Hainan Yue1, 2, Miho Takahashi1, 2, Takasuke Ogawa2, Ryoma Kishi3, 4, Mitsutoshi Tominaga3, Kenji Takamori3, 4, Jiro Kitaura1, Shun Kageyama5, Masaaki Komatsu5, Ko Okumura1, Hideoki Ogawa1, Shigaku Ikeda1, 2, François Niyonsaba1, 6
著者(日本語表記):彭戈1)2)、塚本紗矢1)2)、生玉梨紗1)2)、グエン レー タイン ハイ1)2)、梅原芳恵1)、トルジージョ パエス ジュアン バレンティン1)、岳海楠1)2)、高橋美帆1)2)、小川尊資2)、岸龍馬3)4)、冨永光俊3)、高森 建二3)4)、北浦次郎1)、蔭山俊5)、小松雅明5)、奥村康1)、小川秀興1)、池田志斈1)2)、二ヨンサバ フランソワ1)6)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター、2)順天堂大学大学院医学研究科皮膚科学・アレルギー学、3)順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所、4)順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科、5)順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学、6)順天堂大学国際教養学部
DOI: 10.1172/JCI156501

本研究はNational Eczema Association研究費NEA20-CRG132,NEA21-ERG159,順天堂大学プロジェクト研究費Pro2019-13, Pro2020-12,科研費26461703,21K08309および順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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