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新型コロナワクチン接種後の抗体量に関わる遺伝要因を発見

国立大学法人千葉大学
―カスタムメイドのワクチン接種プログラム開発に一歩―

千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学の尾内善広教授、真下陽一技術専門職員、同アレルギー・臨床免疫学の中島裕史教授、千葉大学医学部附属病院感染症内科の猪狩英俊教授らを中心とした研究グループは、新型コロナワクチンを接種した後に体内で作られる抗体の量に、免疫グロブリン重鎖の2つの遺伝子にみられるDNA配列の違い(バリアント(注1))が影響することを発見しました。この発見は、個人個人にとってより適切なワクチン接種プログラム実施につながることが期待されます。この研究成果は2022年11月2日、英国科学雑誌「Journal of Infection」オンライン版に掲載されました。



背景

免疫グロブリンはBリンパ球という細胞が作りだすタンパク質の複合体(図中Y字のような部分)で、IgG、IgAなどの種類があります。体内や粘膜の上で病原体や毒素などの抗原に結合する“抗体”として、それらの有害性を抑え、私たちを病気から守る“免疫”の役割をはたしています。私たちの体は、様々な抗原に合う抗体を作れるように、あらかじめBリンパ球のレパートリー(注2)をつくって備える仕組みをもっています(図1左)。
新型コロナウイルスはその表面にウイルスが細胞の中に侵入して増殖するために不可欠なスパイクと呼ばれるたんぱく質をもっています。スパイクに結合してその働きの邪魔をする作用をもつ抗体(中和抗体)が体内に十分にあれば、ウイルスに感染しても病気の発症や重症化を免れることができます。新型コロナウイルスのmRNAワクチン(注3)の接種を受けると体内でスパイクが合成され、それに対して抗体が作られることでワクチンは効果を発揮します。しかし抗体が作られる量(抗体価)には個人差があり、抗体価が低いとブレークスルー感染(注4)のリスクが高くなります。



研究の概要

研究グループは、千葉大学医学部附属病院コロナワクチンセンターでワクチン接種を受けた職員を対象とした研究を行っており、今までにワクチン接種後の抗体のでき方に性別や年齢、飲酒の習慣などが影響することを報告しています。今回、Bリンパ球のレパートリーの中に、新型コロナウイルスのスパイクに結合する抗体を作る細胞を、生まれつきの遺伝子の型の違いによって多く持つ人、少なく持つ人がいて、それがワクチン接種後の抗体価の個人差に影響しているのではないか(図1右)、と考え研究を行いました。


新型コロナウイルスに対する中和抗体をその遺伝子に注目して調べた海外の先行研究で、IGHV3-53とIGHV3-66が特に重要で、中和抗体の設計図としてよく使われていることが知られていました。千葉大学医学部附属病院コロナワクチンセンターではこれら2つの遺伝子に注目し、新型コロナワクチン(ファイザー社 BNT162b2)の接種を受けた職員を対象に、研究を行いました(図2上)。

まず、研究参加者の血液中から集めたBリンパ球がもつ免疫グロブリンの設計図を多数調べました。その結果、IGHV3-53とIGHV3-66が用いられた設計図の割合がそれぞれの遺伝子のバリアントによって変化すること、そしてIGHV3-53ではバリアントのT型、IGHV3-66ではバリアントのC型のアレル(注1参照)にそれぞれの遺伝子が利用される確率を高める、つまりIGHV3-53ないしIGHV3-66を設計図に使ったB細胞を増やす効果があることが分かりました(図2左下)。

続いて、2つのバリアントの型と、ワクチンの接種を2回受けた後のスパイクに対する抗体価の関係を解析し、IGHV3-53のバリアントのT型、IGHV3-66のバリアントのC型のアレルを多くもつほど抗体価が高くなることを見出しました(図2右下)。以上のことから、当初の仮説通り、この2つの遺伝子、IGHV3-53とIGHV3-66の型の影響で、これらを免疫グロブリンの設計図として使うB細胞を生まれつき多く持つ人ほどワクチン接種後の抗体量が多くなりやすい、ということが言えます。


今後の展望


本研究では新型コロナワクチン接種後の抗体価に影響する遺伝子のバリアントが世界で初めて特定されました。研究グループでは全ゲノムに検索の範囲を広げた解析を進めており、新たな抗体価関連遺伝子や副反応の出やすさにかかわる遺伝子の特定を目指しています。これらの研究の成果は新たなワクチン開発や予防プログラムの開発に役立つと期待されます。


研究プロジェクトについて


本研究は、文科省科研費 基盤研究B「新型コロナワクチンへの抗体応答および副反応の予測モデル構築に関する研究(22H03329)」の支援を受けて行われました。


掲載論文


Germline variants of IGHV3-53 / V3-66 are determinants of antibody responses to the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine. Journal of Infection, 2022.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jinf.2022.10.015


用語解説


(注1)バリアント: ゲノムを構成するDNAの塩基配列のうち、個体間で2種類以上の異なる配列(アレル)が存在する部位。DNAの塩基配列(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)が1か所だけ異なるものを一塩基バリアントと呼び、ヒトのゲノムのなかで最も多くみられる。
(注2)Bリンパ球のレパートリー: 免疫グロブリンは軽鎖と重鎖からなり、それぞれ異なる遺伝子(設計図)で作られる。抗原と結合する部分(可変領域)はいくつかの部品(軽鎖は2,重鎖は3)に分かれており、Bリンパ球がもととなる細胞(造血幹細胞)からできてくる過程で、軽鎖、重鎖それぞれについて多くの候補から選ばれた一つの組み合わせが決まる(図3)。そのため一つのBリンパ球が作る抗体が結合できる抗原の種類は限られるが、部品の組み合わせ、軽鎖、重鎖の組み合わせのパターンが異なる極めて多様なBリンパ球が出来ることで、様々な抗原に対応して抗体を作れるようになっている。IGHV3-53, IGHV3-66はいずれも重鎖の可変領域の部品(図中のV遺伝子)である。



(注3)mRNAワクチン: ウイルスのmRNA(メッセンジャーRNA; タンパク質の設計図のこと)を脂質の膜に包んで作成したワクチン製剤。接種すると、細胞にmRNAが取り込まれ、設計図によりウイルスのタンパク質が合成される。新型コロナウイルスワクチンとしては、スパイクのmRNAを含む製剤をファイザー社とモデルナ社が製造・供給している。
(注4)ブレークスルー感染: ワクチンを接種した後に、病原体に感染してしまうこと。接種後に十分な抗体価が得られない場合や、一旦上昇した抗体価が時間の経過とともに低下することなどによって起きる。
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