医療・医薬・福祉

アスピリンによる小腸粘膜傷害に対するビフィズス菌の治療効果を発見

ビオフェルミン製薬株式会社
本研究成果は、『Gut Microbes』に掲載されました。(6月9日オンライン)

 ビオフェルミン製薬株式会社(本社:神戸市、社長:北谷脩)の及川洋祐 研究員らは、横浜市立大学 学術院医学群 肝胆膵消化器病学 中島淳 主任教授、吉原努 助教らの研究グループと共同で、解熱鎮痛薬として代表的に用いられている医薬品アスピリンによる小腸粘膜傷害は、胃酸の分泌抑制に用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)で増悪し、その原因としてヒトの腸内にも存在する細菌 Akkermansia muciniphila(A.muciniphila)が、小腸の空腸で増殖していることを動物モデルで発見しました。  さらにこの小腸粘膜傷害は、ビフィズス菌 Bifidobacterium bifidum G9-1(B.bifidum G9-1 )の投与により改善したことから、プロバイオティクスが治療の選択肢となり得ることを示しています(図)。


<研究成果のポイント>


アスピリンによる小腸粘膜傷害の動物モデルを用いて、PPIが増悪因子となっていることを明らかにした。
その際に、空腸で腸内細菌A. muciniphila が異常増殖していることを確認した。
B.bifidum G9-1 は上記の腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れを改善し、小腸粘膜傷害を予防する可能性が示された。

 厚生労働省の平成30年人口動態調査によると、日本人の死因は、心疾患が2位、脳血管疾患が4位と循環器疾患が大きな割合を占める死因の1つとなっており、心筋梗塞や脳梗塞の予防にはアスピリンが広く用いられています。アスピリンの副作用として発症する消化管出血予防目的にPPIがよく処方されていますが、一方で胃や十二指腸、大腸の内視鏡検査では原因がわからない、小腸出血が原因と考えられる消化管出血が時折みられていました。この出血のためにアスピリンなど抗血小板剤を休薬すると、その期間は血栓症の発生リスクが上がってしまうため、小腸粘膜傷害の予防は喫緊の課題でした。

ビオフェルミン製薬論文イラスト

【研究の背景】
 アスピリンを含む、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は胃・十二指腸潰瘍の原因としてよく知られています。小腸は通常の内視鏡検査では観察が困難であるため、暗黒の臓器といわれています。近年小腸カプセル内視鏡検査の普及が進み、これまで観察することが難しかった小腸を観察することができるようになり、NSAIDsはヒトで小腸粘膜傷害を起こすことがわかってきました。マウスなどの動物モデルでは、アスピリン以外のNSAIDs では小腸粘膜傷害を生じることがわかっていましたが、アスピリンはなかなか小腸粘膜傷害を発生させることができず、病態解明の妨げになっていました。そこで、マウスに継続して高果糖食を摂取させたところ、60%の個体で小腸粘膜傷害を形成させることに成功しました。一方、PPIは胃・十二指腸潰瘍予防としてアスピリンによく併用されていますが、小腸粘膜傷害を増悪させる報告があることから、アスピリン小腸粘膜傷害モデルを用いてPPIを併用し、小腸で起こっている現象と病態、および治療法を解明することにしました。

【研究の内容】
 アスピリン小腸粘膜傷害モデルに、PPIを投与すると、特に空腸で小腸粘膜傷害は増悪が認められました。PPIは胃酸分泌を抑制して小腸管腔のpH を上昇させ、これにともない腸内細菌の構成に乱れを生じることが報告されているため、次世代シーケンサーで空腸の菌叢を解析しました。すると、小腸には普段みられないA.muciniphila が検出され、PPI投与によって空腸の中でもA.muciniphila が生息しやすい状態になったのではないかと考えられました。A. muciniphila は腸の粘膜を覆って保護しているムチンを分解する細菌として知られており、これが粘膜傷害を増悪させる原因となっている細菌ではないかと疑われました。実際に、PPIにより小腸粘膜傷害が増悪した群(PPI+アスピリン)では、ムチン層は薄くなっていました。そこで高果糖食を摂取させたマウスにA.muciniphila を投与したところ、投与無しのコントロール群と比較して空腸のムチン層が明らかに薄くなっていました。アスピリンとPPIを投与したときも、ムチン層が薄くなっていたことから、PPI投与によるA.muciniphila の増殖が関与していると考えられました。これに対し腸内細菌叢の乱れを改善すると報告のあるB.bifidum G9-1 を投与すると、A.muciniphila の増殖は抑制されて、ムチン層はコントロール群と同様に厚くなりました。
 また、B.bifidum G9-1 は制御性T細胞を増加させることも発見しました。制御性T細胞は、過剰な炎症を抑制する働きのあるリンパ球であり、この抗炎症作用が粘膜傷害増悪を抑制したことを示唆しています。

【今後の展開】
 今回の研究で、普通食を摂取したマウスでは粘膜傷害が起こらなかったことから、高果糖食の多い西洋食など食生活の変化が小腸粘膜傷害のリスクである可能性が考えられます。食生活の変化は、腸内細菌叢の乱れを惹起しやすいためです。また、動物モデルでプロバイオティクスが粘膜傷害改善の鍵であることが明らかになりましたが、ヒトにおいても同様であるかどうかは今後の検討課題です。

【横浜市立大学 中島 主任教授コメント】
 「本研究ではアスピリンを内服している者が、胃十二指腸粘膜傷害予防に、プロトンポンプ阻害薬を併用することが必ずしも良いことばかりではなく、小腸に粘膜傷害を形成してしまうリスクがあることを示しました。A.muciniphila が病態増悪の鍵となっていることが、本研究の鍵となっています。今回使用した、B.bifidum G9-1 をはじめとしたプロバイオティクスが、病態改善の鍵となり得ることが考えられ、臨床現場での応用も期待されます。腸内細菌の乱れが原因となっている疾患は消化器疾患だけではありません。腸内細菌叢研究が、様々な疾患において今後の研究でも数多く行われると思いますが、同時に治療薬としてのプロバイオティクスの役割についてもさらなる解明が進むことを期待します。」



【用語解説】




【掲載論文】
The protective effect of Bifidobacterium bifidum G9-1 against mucus degradation by Akkermansia muciniphila following small intestine injury caused by a proton pump inhibitor and aspirin

Tsutomu Yoshihara, Yosuke Oikawa, Takayuki Kato, Takaomi Kessoku, Takashi Kobayashi, Shingo Kato,Noboru Misawa, Keiichi Ashikari, Akiko Fuyuki, Hidenori Ohkubo, Takuma Higurashi, Yoko Tateishi,Yoshiki Tanaka, Shunji Nakajima, Hiroshi Ohno, Koichiro Wada & Atsushi Nakajima
Gut Microbes, 09 Jun 2020 DOI: 10.1080/19490976.2020.1758290

※本研究は、横浜市立大学との共同研究により実施されました。



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