医療・医薬・福祉 美容・健康

【岡山大学】アスベスト曝露による癌発症機序の謎 ~喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと~

国立大学法人岡山大学

2023(令和5)年 5月 14日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/




<発表のポイント>


悪性胸膜中皮腫は、吸引されたアスベスト繊維によって引き起こされる胸膜の癌です。アスベスト繊維は、肺組織に固定されると、フェリチンと呼ばれる含鉄タンパク質を表面に蓄積し、アスベスト小体へと成長します。しかし、アスベスト小体が癌を引き起こす理由は十分に理解されていません。
これまでの研究により、アスベスト小体の外的特徴が記述されていました。しかし、アスベスト小体の直径は数ミクロンと小さく、その内部構造は明らかにされていませんでした。
本研究では、悪性胸膜中皮腫患者(喫煙者と非喫煙者)の肺組織から採取されたアスベスト小体を厚さ約 0.1ミクロンの輪切りにして、透過型電子顕微鏡を用いて観察しました。
喫煙者と非喫煙者のアスベスト小体を比較したところ、形態および化学組成に違いが観察されました。喫煙者のアスベスト小体は非喫煙者のそれに比べ、密度が高く、小さく、鉄に富んでいました。常習的な喫煙により継続的に鉄が肺に供給されるからだと考えられます。



◆概 要
 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の岡山大学惑星物質研究所(鳥取県東伯郡三朝町)の中村栄三特任教授らの研究グループは、悪性胸膜中皮腫患者(喫煙者と非喫煙者)の肺全摘手術後の肺組織からアスベスト小体を分離し、地球化学的手法を応用し、これらを比較観察しました。

 喫煙者と非喫煙者のアスベスト小体について、形態および化学組成に差異が認められました。喫煙者のアスベスト小体は、非喫煙者に比べて小さく、密度が高く、鉄に富んでいました。分析されたすべてのアスベスト小体を構成する含鉄タンパク質中の鉄は水酸化鉄の中でも結晶性の極めて低いフェリハイドライトから構成されることが明らかになりました。

 このことは、フェリハイドライトが含鉄タンパク質の殻に包まれたままであり、遊離鉄イオンの発生を抑えていると考えられます。従って、アスベスト小体中の鉄分が触媒となり活性酸素を生成している可能性は低く、活性酸素が悪性胸膜中皮腫の原因でないことを示唆します。

 本情報は、2023年5月12日に岡山大学ホームページで公開されました。



図1: 走査型電子顕微鏡による、アスベスト小体の外観を示す電子顕微鏡写真。アスベスト小体は、直径0.1μm前後のアスベスト繊維を含鉄タンパク質が覆う物体で、 その典型的大きさは数ミクロンです。含鉄タンパク質は0.1μm以下の粒(緑色の印によって示してあります)の集合であり、この大きさはマクロファージ中の含鉄タンパク質集合体の大きさに等しいと言えます



図2: 透過型電子顕微鏡による、アスベスト小体(AFB)の内部構造を示す写真。左に喫煙者のアスベスト小体を、右に非喫煙者のそれを示します。これらは図1に示すアスベスト小体を切断し、側面から観察したものです。円状構造の中央に位置する明るい0.1ミクロン径の物体がアスベスト繊維です。背景に示される明るく交叉する影は、試料を固定するグリッドによる影です。アスベスト繊維は輪状の含鉄タンパク質に囲まれます。喫煙者から採取されたアスベスト小体(左)は非喫煙者のそれ(右)と比較すると、密で均一な組織により構成されます



図3:アスベスト小体の形成メカニズム。(a)鉄に富むアスベスト繊維が肺環境に届き定着します。マクロファージ(AM)は、これを異物ととらえ貪食に向かいます。(b)マクロファージは貪食を始めますが、アスベスト繊維は鉄を含む細長いケイ酸塩鉱物であり、完全に取り込むことも分解することもできずストレスを感じ(frustrated phagocytosis)、外部から鉄を含鉄タンパク質の塊(Fe-inc)として細胞内に取り入れますが、結局死に絶えます。(c)マクロファージの死後、残骸がアスベスト繊維の表面に堆積しますが、Feに富んだ包有物の数は限られており、他のFe源もまだ利用できないため、多孔質層となります。その後、空隙の多い層は肺胞表面活性剤(LS)や酸性ムコ多糖類(Mps)を付着します。(d)付着した多糖が、肺環境から鉄を吸収します。(e、f)マクロファージの堆積及び多糖による鉄の吸引プロセスが繰り返され、含鉄タンパク質に覆われたアスベスト小体が形成します。(g)喫煙者の場合、タバコの煙から安定的に鉄が供給されるため、密の構造が形成されます。(h)非喫煙者の場合、鉄の供給が安定せず、密ならびに疎の両構造が形成されます


◆中村栄三特任教授からのひとこと
 小惑星リュウグウの研究で用いた地球化学的手法は人体に関係する研究にそっくりそのまま応用できます。宇宙を支配する摂理と同じ摂理がヒト内部の物質の挙動を決めるのです。引き続き、惑星物質について分け隔たりなく、物質の進化を理解していこうと思います。

中村栄三特任教授



◆論文情報
 論文名:An investigation of the internal morphology of asbestos ferruginous bodies: constraining their role in the onset of malignant mesothelioma
 邦題名:「アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと」
 掲載誌:Particle and Fibre Toxicology
 著 者:Maya-Liliana Avramescu, Christian Potiszil, Tak Kunihiro, Kazunori Okabe, and Eizo Nakamura
 D O I:10.1186/s12989-023-00522-0
 U R L:https://doi.org/10.1186/s12989-023-00522-0


◆詳しいプレスリリースについて
 アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20230512-3.pdf


◆参 考
・岡山大学惑星物質研究所(IPM)
 http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/jp/
・岡山大学惑星物質研究所 The Pheasant Memorial Laboratory(PML)
 https://pml.misasa.okayama-u.ac.jp/home.php


◆参考情報
・【岡山大学】小惑星リュウグウがかつて彗星であった可能性を理論的に指摘 ~小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星物質の起源解明へ~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000573.000072793.html
・【岡山大学】小惑星リュウグウに記録されたアミノ酸生成の痕跡 ~初期太陽系における水-有機物反応のスナップショット~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001338.000072793.html
・【岡山大学】惑星物質研究所 中村栄三特任教授関連の記事が日本学士院広報誌「PJAニュースレター」に掲載されました
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001377.000072793.html
・【岡山大学】在日フランス大使館担当官、日本原子力研究開発機構理事長らが惑星物質研究所を視察 ~探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取した試料を観察~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000848.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学惑星物質研究所「すぐにわかる小惑星リュウグウの起源と進化」が知の拠点【すぐわかアカデミア。】で動画配信スタート
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000833.000072793.html
・【岡山大学】3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」から採取した試料をイベントに合わせて一般公開しました!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000170.000072793.html
・【岡山大学】惑星物質研究所の中村栄三教授が「令和2年度星取県推進功労者知事表彰」を受賞
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000060.000072793.html
・「スペースサイエンスワールド星取県」基調講演/スペシャルトークセッションに中村栄三特任教授が登壇
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000072793.html
・内閣府「国立大学イノベーション創出環境強化事業」に採択 イノベーションエコシステムの構築を加速(令和2年10月20日付岡山大学プレスリリース)
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id9724.html


◆岡山大学惑星物質研究所紹介
 YouTube 4:53
 https://youtu.be/UQtAxdYGI0k



岡山大学惑星物質研究所(IPM)(鳥取県東伯郡三朝町)
岡山大学惑星物質研究所の位置(googleマップより)


◆本件問い合わせ先
 岡山大学惑星物質研究所
 岡山大学自然生命科学研究支援センター 特任教授 中村栄三
 (勤務地:岡山大学惑星物質研究所〔〒682-0193 鳥取県東伯郡三朝町山田827〕)
 TEL:0858-43-3745
 FAX:0858-43-3745
 E-mail:eizonak ◎misasa.okayama-u.ac.jp
     ※ ◎を@に置き換えて下さい
 https://pml.misasa.okayama-u.ac.jp/home.php

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
     ※ ◎を@に置き換えて下さい
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

 岡山大学メディア「OTD」(アプリ):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000072793.html
 岡山大学メディア「OTD」(ウェブ):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000072793.html
 岡山大学SDGsホームページ:https://sdgs.okayama-u.ac.jp/
 岡山大学SDGs~地域社会の持続可能性を考える(YouTube):https://youtu.be/Qdqjy4mw4ik
 岡山大学Image Movie (YouTube):https://youtu.be/pKMHm4XJLtw
 「岡大TV」(YouTube):https://www.youtube.com/channel/UCi4hPHf_jZ1FXqJfsacUqaw
 産学共創活動「岡山大学オープンイノベーションチャレンジ」2023年5月期共創活動パートナー募集中:
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001398.000072793.html

 岡山大学『THEインパクトランキング2021』総合ランキング 世界トップ200位以内、国内同列1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000072793.html
 岡山大学『大学ブランド・イメージ調査2021~2022』「SDGsに積極的な大学」中国・四国1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000373.000072793.html
 岡山大学『企業の人事担当者から見た大学イメージ調査2022年度版』中国・四国1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000072793.html




国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学である岡山大学にご期待ください
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ
本コーナーの内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES ()までご連絡ください。製品、サービスなどに関するお問い合わせは、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。

関連記事(PRTIMES)