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慢性閉塞性肺疾患 QOL評価の有用性と禁煙の重要性が明らかに 独自の解析法で30年にわたる病態進行を推定

国立大学法人千葉大学
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、日本において500万人以上の患者が潜在しているといわれる進行性の慢性疾患で、生涯に渡る治療・疾患管理が必要になります。そのため、COPD患者の将来の病状を正確に予測し、最も有効な治療法を選択することが重要です。  千葉大学大学院 薬学研究院および慶応大学医学部の研究グループは、多数の短期間データから数十年にわたる変化を推定する独自の新しい解析法で、1,025名の患者の4年間の臨床試験結果から30年程度のCOPDの病態進行を推定しました。この解析により、COPDの患者では生涯にわたり生活の質(Quality of Life : QOL)が一貫して悪くなることが、臨床試験の結果からは初めて明確に示されました。また、禁煙によりQOLの悪化の速度も半分程度になることが確認されました。この解析結果により、今後の臨床試験の評価指標の選択肢が広がったとともに、患者への禁煙指導が重要であることが示唆されました。  本成果は、科学誌Journal of Clinical Medicineにて2020年8月19日にオンライン公開されました。



研究の背景

 これまで、QOLは1.5年程度の短い時間では十分な変化が認められないなどの事例があり、COPDの疾患の評価や治験の主要評価項目などには肺機能検査値が汎用されています。一方で、COPDは罹患期間が生涯に渡る慢性呼吸器疾患であることから、近年ではCOPDの重症度評価は、肺機能検査値だけでなくQOLも含めて評価する必要性が盛んに述べられています。しかしながら、QOLを考慮に入れた長期的な病態進行推測の方法は未だ確立されていませんでした。
 そこで、本研究グループでは、短期間データから長期推移を推定する新しい解析法であるSReFT(※1) (Statistic Restoration of Fragmented Time-course) を用い、既存の臨床試験結果を解析することにより、QOLおよび肺機能の長期病態進行を推測することを目的に研究に取組みました。

研究の方法

 本研究は、COPD患者を対象とした国際共同治験SUMMIT試験(※2)に参加し、プラセボの投与を受けた1,025名のデータを解析に用いました。評価の指標にはSGRQ及びCATスコア、%FEV1及び%FVCの4つを用いて、COPD発症から30年程度の変化をSReFT解析を行い推定しました。
 なお、SGRQ及びCATスコアは、COPDにおける健康関連のQOL評価指標であり、スコアが大きいほどQOLが悪化していることを意味しています。また、%FEV1及び%FVCは、肺機能を示す指標で、数値が低下するほど、肺機能が低下していることを示しています。
図1:SReFT解析で、喫煙の有無と病態悪化の有無に着目して比較推定した各指標の時系列変化。喫煙者(図中青・紫)と比較して禁煙者(図中赤・緑)は、QOLの低下速度が遅かった。
成果 1:QOLの悪化を示すスコアは罹患後数十年間も明らかに増加する
 QOLの指標としたSGRQ及びCATスコアは、病態進行に伴う明らかな増加が認められました(図1(a)(b))。肺機能検査値については、%FEV1については罹患後すぐに減少傾向が認められたものの、疾患時間が10年以上になると減少は鈍化し、また%FVCについては大きな変化は認められませんでした(図1(c)(d))。
 この解析結果は、COPD発症により肺機能は比較的早期に下がり止まる可能性のあること、また下がり止まった患者でも、生涯にわたりQOLの悪化が続くという結果を初めて明確に示しました。したがって、COPDの病態進行の評価のためにはQOLを積極的に確認することが重要だと考えられます。
成果 2:禁煙により病態進行を約半分程度に遅らせることが可能
 喫煙状況が病態進行に与える影響を調べるために、患者を現喫煙者と前喫煙者に分けて長期病態進行に違いが認められるか調べました。その結果、禁煙をすることでQOL悪化の進行速度を約半分程度に遅くさせることが可能であると考えられました(図1(a)(b))。
 既に禁煙は肺機能の悪化を抑制し、COPD予防・治療において非常に重要であることは知られていますが、それでも禁煙を希望しない患者もいます。本研究で明らかになったように将来的に大きなQOLの差になることを理解した上で、禁煙をより強く推奨していくことが重要と考えられます。

研究手法の詳細

 本研究は、千葉大学薬学部倫理審査委員会の承認を受けて、SUMMIT試験(NCT01313676)の被験者レベルデータを、ClinicalStudyDataRequest.comから入手し解析に用いました。SUMMIT試験に参加した被験者のうち、プラセボが投与され、本研究の選択基準を満たす1,025例の肺機能(%FEV1および%FVC)並びにQOL質問票(SGRQおよびCAT)のスコアを用いてSReFT解析を行いました。
 SReFT解析は、NONMEM 7.4を使用し、疾患時間の計算アルゴリズムは、PREDサブルーチン(PRED_SReFT)として実装しました。

研究者のコメント(千葉大学大学院 薬学研究院 樋坂章博 教授)

 この研究は、COPDの長期病態進行を、既存の臨床試験結果を解析することで明らかにした研究です。また、本研究では、長期病態進行におけるQOL評価の有用性が改めて示され、これまで中心的に扱われてきた肺機能検査に加えて、QOL評価をより実施していく必要があるでしょう。また、禁煙の効果についても数十年後の違いを定量的に推定しており、患者の禁煙推進の一助となると思います。COPDの生涯に渡る治療・疾患管理の改善に、本研究結果が寄与できれば幸いです。


用語解説

1) SReFT解析:数十年にわたる経時推移を多数の短期間データから推定する新しい解析法で、メンバーの1人の樋坂教授が東京大学在籍時に開発したもの。これまでにはアルツハイマー病の解析が発表されており、今回のCOPDは2番目の適用となる。技術的には母集団薬物動態解析法を大幅に拡張したものとなるが、データ駆動型で解析が進む点では新しい機械学習の方法ともみなせる。慢性疾患の進行を実証するには、数十年にわたる大規模な臨床研究などが必要であり、その実施には莫大な経費と時間を要するところ、SReFTはこの問題を解決する新しい糸口になると期待される。
2)SUMMIT試験:2011年~2015年にかけて実施された、COPD患者を対象とした国際共同治験。臨床試験情報公開制度(リポジトリ)であるClinicalStudyDataRequest.comを通じて、一定の手続きに従いデータが入手可能である。


研究プロジェクトについて

この研究は日本医療研究開発機構の資金助成(JP20mk0101159)を受けて行われました。


論文情報

論文タイトル:Scores of Health-Related Quality of Life Questionnaire Worsen Consistently in Patients of COPD: Estimating Disease Progression Over 30 Years by SReFT with Individual Data Collected in SUMMIT Trial.
掲載誌:Journal of Clinical Medicine, 2020. in press.
著者:川松真也(社会人博士課程大学院生)(1,2)、神亮太(修士課程大学院生)(1)、荒木渉吾(学部生)(1)、吉岡英樹(博士課程大学院生)(1)、佐藤洋美(講師)(1)、佐藤泰憲(准教授)(3)、樋坂章博 (教授)(1)
1: 千葉大学大学院薬学研究院 臨床薬理学
2: グラクソ・スミスクライン株式会社 開発本部
3: 慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室
DOI: https://doi.org/10.3390/jcm9082676
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