医療・医薬・福祉

骨肉腫の新たな標的治療の発見

学校法人 順天堂
~ プレシジョン・メディシン時代の骨肉腫の新規治療法開発へ ~

順天堂大学医学部整形外科学講座の末原義之 准教授、人体病理病態学講座の林大久生 准教授らの研究グループは、米国ニューヨークのMemorial Sloan Ketteringがんセンターとの共同研究により、希少がんである骨肉腫(*1)のがん遺伝子検査(がんクリニカルシークエンス検査*2:MSK-IMPACT*3)の結果解析から、染色体の特定部位の遺伝子変化が新規標的治療になりうることを発見しました。本成果はプレシジョン・メディシン*4(精密医療)時代における高悪性骨腫瘍の骨肉腫の治療に大きく道を拓く可能性を示しました。本研究は米国のがん治療の科学誌「Clinical Cancer Research 」オンライン版 (2019年6月7日付)で発表されました。


【本研究成果のポイント】


希少がんの骨肉腫に対してがんクリニカルシークエンス検査によるがん個別化医療(プレシジョン・メディシン)が有用であることを確認
染色体の特定部位(4q12部位、6p12部位、12q14部位)にコピー数異常(遺伝子増幅)が存在し、約40%の骨肉腫に対して新規標的治療になりうることを発見
今回発見した遺伝子変化を標的にした骨肉腫新規治療法の開発に道



【背景】
骨肉腫は国内で年間 200~300人ほどが発症し、小児に最も発生する悪性骨腫瘍(骨に発生するがん)ですが、近年では高齢者にも多く発生(二峰性の年齢分布)がみられます。治療には化学療法、外科手術を組み合わせた集学的治療が行われていますが、初診時転移症例や治療抵抗性症例では5年生存率が30%以下と極めて悪性度が高いものが多く、新たな治療法の開発が必要とされています。骨肉腫の原因の一部に遺伝的リスク(Li-Fraumeni症候群)があることは知られていましたが、その他のがん関連遺伝子の関与は不明でした。また、骨肉腫の化学療法において用いられる抗がん剤は過去30年間大きく変わっておらず、新規薬が望まれています。そこで私たち研究グループは、希少がんである骨肉腫の大規模がんクリニカルシークエンス検査と解析を進め、これまで不明であった骨肉腫の発生・悪性化のゲノム背景を明らかにし、新規治療法を開発することを目的として研究を進めました。

【内容】
研究グループはまず、高悪性骨肉腫患者の71検体(66患者)に対してMSK-IMPACTを用いた大規模がんクリニカルシークエンス検査を行い、468個のがん関連遺伝子の遺伝子変化を調べました。その結果、データベースOncoKB(*5)で臨床に治療適応可能な遺伝子変化として定義されているCDK4の遺伝子増幅(n=9、14%)、MDM2の遺伝子増幅(n=9、14%)、ならびにBRCA2の遺伝子突然変異/欠失の短縮(n=3、5%)、PTCH1の融合遺伝子(n=1、1.5%)よりなる14患者(21%)を検知しました。すなわち、遺伝子パネルを使って解析をすることにより新たな治療標的の検出が可能であることを見出しました。その他に、染色体4q12と6p12-21領域のコピー数変異が相互排他的に存在し、染色体4q12領域のKIT、KDR、PDGFRA遺伝子(n=13、20%)、染色体6p12-21領域のVEGFA遺伝子(n=14/59、24%)が遺伝子増幅していたことを同定し、新たな標的治療候補を発見しました(図1)。また、それら染色体4q12領域のKDR、PDGFRA遺伝子の増幅は病理標本の免疫染色化学検査においても増幅した発現を確認することに成功しました。


図1  MSK-IMPACTを用いた高悪性骨肉腫のがん関連遺伝子の変化
以上の結果、既知のがん関連遺伝子の標的としたMSK-IMPACTによる大規模がんクリニカルシークエンスにより、高悪性骨肉腫患者の約21%に臨床に適応可能な遺伝子変化を見出すことができました。 さらに、患者の約40%にはPDGFRAまたはVEGFA遺伝子の増幅などが認められる腫瘍を有していることがわかりました。

【今後の展開】
今回の結果は、悪性度の高い骨肉腫における既知のがん遺伝子を標的とした大規模パネルによるがんクリニカルシークエンス検査(MSK-IMPACT)の実臨床に対する有用性を明らかにしたものです。これは、OncoKBによる臨床に治療適応可能と定義された遺伝子変化を、本検査により約21%同定することが可能であり、更に現在までに知られていなかった新規標的治療法の適応対象が約40%の骨肉腫患者に存在する可能性を示しています。特に染色体4q12領域のKIT、KDR、PDGFRA遺伝子の標的治療薬(阻害剤)であるPazopanib、Regorafenib、Olaratumab、そして染色体6p12-21領域のVEGFA遺伝子の標的治療薬Sorafenib、Pbazopanib、Bevacuzumabは、臨床試験を経て新規治療法の開発へ繋げたいと考えています。海外ではPazopanib(*6)、Regorafenib(*7)はすでに遺伝子増幅情報と関係なく骨肉腫患者に使用され奏効した報告があり、それらをゲノムベースアルゴリズムの基に理論的に薬剤を使用するがん個別化医療(プレシジョン・メディシン)で展開することが可能になります(図2) 。
図2 骨肉腫患者の遺伝子増幅割合と標的治療薬を用いた包括的な治療戦略の可能性
なお、がんクリニカルシークエンス検査(MSK-IMPACT)は国内では順天堂大学医学部附属順天堂医院などで実施が可能です。

【用語解説】
*1. 骨肉腫: 小児に発生する悪性の骨軟部腫瘍。発生頻度は原発性骨腫瘍では一番目に多い。近年高齢者にも多く発生し二峰性の年齢分布がみられる。
*2. がんクリニカルシークエンス検査: がん関連遺伝子の遺伝子変化を解析し、がん患者の診断や治療に活用する検査。遺伝子に生じている遺伝子変化は患者(腫瘍)ごとに異なり、その遺伝子変化を調べることで個別化した治療(標的治療など)を行える。がんクリニカルシークエンス検査では、通常100を超えるがん関連遺伝子の変化を一度に調べることができ、難治性のがんの診断や治療に役立つ情報がないかを解析することができる。
* 3. MSK-IMPACT: 米国屈指のがん拠点施設でニューヨークにあるMemorial Sloan Ketteringがんセンターが開発したがんクリニカルシークエンス検査。FDAの承認を得ており、468個にのぼるがん関連遺伝子の遺伝子変化を調べることができる世界最高精度の検査。国内では順天堂大学医学部附属順天堂医院などで検査可能となっている。
*4. プレシジョン・メディシン: 精密医療とも呼ばれる。近年、分子標的薬が多数開発されており、検出された遺伝子変化に応じて分子標的薬を精密に選択する個別化がんゲノム医療。
*5. OncoKB :米国ニューヨークのMemorial Sloan Ketteringがんセンターが開発したがん治療薬の臨床的エビデンスを集積したデータベース。保険収載薬、FDA承認薬、治験薬に対応するがん遺伝子変化が情報集積されており、患者遺伝子プロファイル(がんクリニカルシークエンス検査結果)とのマッチングを行う。その結果、実臨床に治療適応可能な遺伝子変化(potentially clinically actionable alterations)の存在の有無や治療妥当性レベルを提示する。
*6. Pazopanibを骨肉腫患者に使用して奏効した論文(Longhi A et al. Acta Oncologica, 58, 124-128, 2019. Longhi A et al. e23501 ASCO 2018.)と海外の治験(Study of Pazopanib in the Treatment of Osteosarcoma Metastatic to the Lung. NCT01759303)。
*7. Regorafenibを骨肉腫患者に使用して奏効した発表(Duffaud E et al. Lancet Oncol 20, 120–133 2019. Davis LE et al. J Clin Oncol. 2019 Epub ahead of print)と海外の治験(A Phase II Study Evaluating Efficacy and Safety of Regorafenib in Patients With Metastatic Bone Sarcomas. NCT02389244)。

本研究成果は、米国のがん治療の科学雑誌の「Clinical Cancer Research」誌のオンライン版(2019年6月7日付)で公開されました。
論文タイトル:Clinical genomic sequencing of pediatric and adult osteosarcoma reveals distinct molecular subsets with potentially targetable alterations
日本語訳:小児および成人骨肉腫の臨床ゲノム配列決定は治療応用可能な分子標的遺伝子変化の分類を明らかにする
著者:末原義之, Deepu Alex, Anita Bowman, Sumit Middha, Ahmet Zehir, Debyani Chakravarty, Lu Wang, George Jour, Khedoudja Nafa, 林大久生, Achim A Jungbluth, Denise Frosina, Emily Slotkin, Neerav Shukla, Paul Meyers, John H. Healey, Meera Hameed, Marc Ladanyi
筆者らの所属機関:順天堂大学医学部、Memorial Sloan Kettering Cancer Center, NY, USA、St Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN
DOI: 10.1158/1078-0432.CCR-18-4032

なお本研究は、米国ニューヨークのMemorial Sloan Ketteringがんセンターとの国際共同研究として、JSPS科研費 国際共同研究加速基金JP15KK0353による支援を受けて行われました。
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