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指定難病「重症筋無力症」の予後予測に有用なマーカーを発見~治療の最適化による副作用軽減・生活の質改善に期待~

国立大学法人千葉大学
 千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学 桑原聡 教授、医学部附属病院脳神経内科 鵜沢顕之 助教、大学院医学薬学府 特別研究学生 小島雄太(京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経内科学 博士課程4年生)らの研究グループは、京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経内科学 水野敏樹 教授、能登祐一 学内講師との共同研究において、重症筋無力症の治療後の早期に抗アセチルコリン受容体抗体(注1)価減少率を調べることによって、治療後の経過(予後)を予測できることを明らかにしました。  臨床現場で予後や治療反応性の予測が可能になれば、その患者さんに合ったステロイド(注2)の用量を調整しやすくなり、ステロイド以外の治療を選択しやすくなります。このような治療法の最適化により重症筋無力症の治療による副作用の軽減や生活の質の改善が期待できます。  本研究成果は、科学雑誌Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatryにオンライン掲載されました。


図1:アセチルコリンの作用と重症筋無力症の仕組み


研究の背景

 重症筋無力症は、抗アセチルコリン受容体抗体などの病原性自己抗体により神経と筋肉の接合部に異常をきたし、筋力低下を起こす自己免疫疾患であり(図1)、複視(ものが二重に見えること)や眼瞼下垂(まぶたが開きにくくなること)といった眼筋症状および四肢の筋力低下、嚥下障害、呼吸障害などの全身症状が易疲労性(疲れやすさ)を伴って現れるのが特徴です。厚生労働省の定める指定難病の一つで、患者数は国内におよそ2万9千人(2018年)とされています。
 重症筋無力症は、抗体の産生を抑えるステロイドを始めとした免疫治療の発展によりその生命予後が著しく改善されてきましたが、長期的に完全寛解(内服薬を用いなくても症状が無い状態)に達するのは日本の重症筋無力症の患者さんのうち10%以下であり、多くの患者さんはステロイドの長期内服を余儀なくされます。また重症筋無力症の症状が軽微でも、ステロイド長期内服による様々な副作用が生活の質を低下させることが知られています。しかし、重症筋無力症において予後の予測や治療法の選択に有用で臨床現場で使える指標は乏しいのが現状でした。

研究の結果

 重症筋無力症では血液中の血清の約85%に抗アセチルコリン受容体抗体が検出されるため、臨床現場において診断もしくは治療経過のモニタリングを目的として抗アセチルコリン受容体抗体価が測定されています。本研究では、重症筋無力症患者53人における治療前後(治療後は治療開始から100日以内に測定)の抗アセチルコリン受容体抗体価の比較から算出した抗体価減少率で、予後が予測できないか検討しました。予後の指標は、重症筋無力症の一般的な治療目標である軽微症状(Minimal manifestation, 以下MM)(注3)の達成率を用いました。
 その結果、抗アセチルコリン受容体抗体減少率が0.64%/日より高い群では、低い群と比較して治療開始1年後のMM達成率が有意に高く、より早期にMMを達成していることが明らかになりました(図2)。対象となった患者の92%がステロイドによる治療を受けていましたが、抗アセチルコリン受容体抗体価の減少率が高い人ほど治療1年後の予後が良好で、ステロイド内服量も少ないことがわかりました。
 この結果から、抗アセチルコリン受容体抗体価の減少率はステロイド治療への反応性を反映し重症筋無力症の治療予後を予測する有用なマーカーとなりうると考えられます。
図2:抗アセチルコリン受容体抗体価減少率の高値群と低値群における累積MM達成率


今後の展望

 重症筋無力症の治療では、ステロイド長期使用による副作用やステロイドが効果を示さない症例の存在が問題となっています。臨床現場で日常的に測定できる抗アセチルコリン受容体抗体価の減少率から予後や治療反応性を予測することができれば、その患者さんに合ったステロイドの用量調整がしやすくなり、免疫抑制剤やガンマグロブリン、血液浄化療法といったステロイド以外の治療を併用する判断がしやすくなると考えられます。この新規指標を用いた治療法の最適化により重症筋無力症患者さんの予後や生活の質の改善が期待できます。


論文情報

タイトル:“Rate of change in acetylcholine receptor antibody levels predicts myasthenia gravis outcome “(重症筋無力症において治療後早期の抗アセチルコリン受容体抗体価減少率は1年後の予後と関連する)
雑誌名:Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
著者:Yuta Kojima,Akiyuki Uzawa,Yukiko Ozawa,Manato Yasuda,Yosuke Onishi,Hiroyuki Akamine,
Naoki Kawaguchi,Keiichi Himuro,Yu-ichi Noto,Toshiki Mizuno,Satoshi Kuwabara

用語解説

(注1)抗アセチルコリン受容体抗体:末梢神経の終末部に電気信号が伝えられると、アセチルコリンという神経伝達物質が神経終末から神経筋接合部に放出され、筋肉側にあるアセチルコリン受容体がこれを受け取り、筋細胞に神経からの命令を伝えます。重症筋無力症ではこのアセチルコリン受容体に反応する自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)が産生され、アセチルコリン受容体が破壊されることで神経と筋肉の間の信号伝達が障害されるため、筋力低下の症状が出ます。
(注2)ステロイド:ステロイドは本来、副腎皮質で産生されるホルモンの一種であり、生体内に不可欠な機能を有しています。薬剤としては炎症やアレルギー反応を抑える効果があり、重症筋無力症、膠原病などの自己免疫疾患、アレルギー性疾患の治療薬として幅広く用いられています。服用方法、服用量や服用期間によって、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、消化管潰瘍、白内障など様々な副作用をきたすことがあり注意を要します。
(注3)軽微症状(Minimal manifestation:MM):重症筋無力症による軽微な筋力低下症状はあるものの、生活や仕事など日常生活に支障はない状態を指します。ステロイドなどの免疫治療を行なっても、症状が消失する完全寛解を達成する患者はごく少数であり、様々な副作用を生じうるステロイド量を減らすためにもMMを重症無力症における治療目標とすることが推奨されています。
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