医療・医薬・福祉 教育・資格・人材

前立腺がんにおけるアミノ酸トランスポーターLAT3の役割を解明―男性ホルモンによる栄養調節が がんの進行に関与―

国立大学法人千葉大学
 千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学 市川智彦 教授、坂本信一 講師、梨井隼菱 医員、分子腫瘍学 金田篤志 教授、腫瘍病理学 池原譲 教授、薬理学 安西尚彦 教授らの研究グループは、アミノ酸を運ぶ役割を持つタンパク質(アミノ酸トランスポーター(注1))であるLAT3が、前立腺がんの進行に密接に関与するアンドロゲン受容体(AR)によってその発現量が制御され、がんの進行や転移に関わることを解明しました(図1)。前立腺がん(注2)の進行メカニズムの一端が明らかになったことにより、LAT3が前立腺がんの早期発見や新たな治療の標的となる可能性が示されました。  この研究成果は、Cancer Science誌に2021年7月8日にオンライン公開されました。


図1 前立腺がんにおけるアミノ酸トランスポーターLAT3の模式図。 男性ホルモン(アンドロゲン)の刺激でがんの進行に関わる。


研究の背景

 男性の罹患率第1位のがんである前立腺がんは、近年では欧米だけでなく日本でも患者数が増加しています。前立腺がんの進行には男性ホルモン(アンドロゲン)が密接に関与しており、がん細胞内でアンドロゲンがアンドロゲン受容体(以下、AR)と結合することで、がんの進行を引き起こしています。
 研究グループは、これまでがん細胞におけるアミノ酸トランスポーターの機能解析と、創薬について研究を行ってきました。アミノ酸トランスポーターの一つであるLAT3は、前立腺がんに多く発現していることが知られていましたが、その機能は長らく不明でした。そこで今回、前立腺がんにおけるLAT3の機能、特にARとの関連に着目して研究を行いました。

研究の成果


図2 手術検体のLAT3の免疫染色。 悪性度の高いがんでLAT3がより茶色く染まり、多く発現していることを示している。
 本研究では、以下の1.~3.について解明しました。
1.LAT3の発現がARによって制御されることを確認
 前立腺がん細胞に対し、アンドロゲンの一種であるジヒドロテストステロンを投与すると、LAT3の発現が上昇しました。またこの効果はARの阻害剤であるビカルタミドの投与によって抑制されました。


図3 LAT3の染色の強さと術後再発との関係。 LAT3の発現が強い群は無再発生存率が低く、再発せずに生きている割合が低い。
2.細胞周期(注3)に関連するLAT3の新たな標的分子を同定
 網羅的RNAシークエンス解析(注4)により、LAT3の下流シグナルとして、Separaseという細胞周期に関連する新たな標的分子を同定しました。この標的分子を通じて、LAT3が細胞の増殖をコントロールすることが明らかになりました。
3.前立腺がん患者におけるLAT3の発現と術後再発との関連を解明
 千葉大学医学部附属病院における前立腺全摘標本を用いて、免疫染色を行いました(図2)。LAT3の染色の強さと臨床データとの関連を調べると、LAT3の発現の高い患者さん(図3赤)は、術後の再発が有意に多いことがわかりました(図3)。

今後の展開

 本研究では、ARにアミノ酸トランスポーターLAT3が制御され前立腺がんの細胞増殖に関与することがわかり、前立腺がんの進行メカニズムの一端が明らかになりました。これにより、LAT3が前立腺がんの新しい腫瘍マーカーや治療の標的となる可能性が示されました。
 研究チームはこれまでに、がん細胞の増殖を促進させる他のアミノ酸トランスポーターの機能も解明してきました。(関連ニュースリリース参照)
 現在、千葉大学医学部附属病院の臨床試験部、泌尿器科学、薬理学の共同プロジェクトとして、男性ホルモンを抑制してもがん組織が増殖する標準治療抵抗性前立腺がんの臨床試験(注5)も計画しています。これらの研究により、多様・複雑ながんの病態に対して最適な治療方針や薬剤の開発が進むことが期待されます。

用語解説

(注1)アミノ酸トランスポーター:アミノ酸は生体を構成するタンパク質の構成要素であるが、同時に生体の様々な反応を制御する、シグナルとしての働きを持つことが近年明らかになってきた。アミノ酸トランスポーターとは、細胞の外からアミノ酸を細胞内に取り込むタンパク質のこと。LATはアミノ酸トランスポーターの一種であり、LAT1からLAT4まで存在する。それぞれ異なる細胞で発現し、機能を果たしていると考えられる。
(注2)前立腺がん:世界的にみると発生頻度の高いがんであり、特に米国では、男性の罹患率第1位、死亡原因としては第2位のがん。高齢化に伴い、日本でも近年急速に患者数の増加を認める。日本での前立腺がんの罹患数は2017年時点で91,215人であり、すべての男性がんの15.9%を占める。年齢調整罹患率は10万人あたり147.9であり、胃がん、大腸がんを抜いて第1位。未治療の進行性前立腺がんに対する標準治療はホルモン療法であり、精巣及び副腎由来のアンドロゲンを抑えることで、がんの進行をある程度抑制することが可能。しかし、いずれホルモン療法の効果が失われ、ホルモン治療下でも増殖するがんが発生する。これを去勢抵抗性前立腺がんと呼び、現在その治療が、臨床的な課題となっている。
(注3)細胞周期:細胞が増える時、細胞が分裂し新しい細胞を生み出す過程のこと。細胞はG1, S, G2, M期という過程を経て増殖する。
(注4)網羅的RNAシークエンス:次世代シークエンスを用いて取得したDNAの断片の情報(生データ)をデータ解析することで、遺伝子の発現量が解析できる手法。
(注5)標準治療抵抗性前立腺がんの臨床試験:がん細胞に特異的に発現するアミノ酸トランスポーターである、LAT1を阻害するJPH203という薬剤を用いる臨床試験。LAT1は正常な細胞ではほとんど発現せず、様々ながん細胞で多く発現することが知られている。JPH203とは、日本のバイオベンチャー企業であるジェイファーマ社が開発した、LAT1の特異的な阻害剤。すでに固形がん(胆道がん、肝臓がん、乳がんなど)において、第一相臨床試験が終了し(Invest. New Drugs. 2020 Oct;38(5):1495-1506.)、現在第二相試験が行われている。


論文情報

論文タイトル: "Functional analysis of LAT3 in prostate cancer: its downstream target and relationship with androgen receptor"
雑誌名:Cancer Science
DOI: https://doi.org/10.1111/cas.14991

研究資金について



 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の基盤研究B(20H030813)、基盤研究C(20K09555)などの支援を受けて行われました。


関連ニュースリリース

「前立腺がんにおけるアミノ酸トランスポーター4F2hcの機能を解明 新たな腫瘍マーカーとして期待」(2021年6月2日)
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2021/20210602_1.pdf
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ
本コーナーの内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES ()までご連絡ください。製品、サービスなどに関するお問い合わせは、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。

関連記事(PRTIMES)