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不適切な行動の抑制に関わる脳の情報処理の回路を発見

学校法人 順天堂
~ 前頭葉からの2つの独立した神経回路が不適切な行動を抑える ~

順天堂大学医学部生理学第一講座の長田貴宏 准教授、小西清貴 教授らと東京大学の共同研究グループは、自身の行動の抑制に関わる脳の情報処理の回路を同定し、前頭葉にある下前頭皮質の2つのサブ領域を起点とする独立した回路の働きによって不適切な行動が抑制されることを発見しました。行動の抑制には前頭葉を中心にいくつかの脳の部位が関係することはこれまで知られていましたが、本研究で明らかになった神経回路において行動抑制の際どのような時間順序で情報処理がなされているかは、今回初めて示されました。この成果は、行動抑制を生み出す脳内メカニズムを解明するとともに、脳機能に関する科学的根拠に基づいた認知機能障害の予防・回復法の開発などに貢献すると期待されます。本研究成果は米国Cell Reports誌に2021年9月21日(日本時間9月22日)で発表されました。


本研究成果のポイント


不適切な行動の抑制を生み出す脳の2つの情報処理回路を発見
下前頭皮質の2つのサブ領域を起点とした情報処理の回路が異なる時間順序で独立して働き、別々の認知的機能を担うことを明らかに
神経回路の知見に基づいた認知機能障害の予防・回復法の開発に期待


背景
歩き始めた次の瞬間に赤信号に気付いて動き出した足を止めるというように、ヒトは日常生活において不適切な行動を抑え、適切な行動を選択しています。不適切な行動を抑制する能力は反応抑制機能と呼ばれ、変化する環境の中で行動を最適化するのに必要不可欠な働きです。この反応抑制機能は、脳損傷の患者における症例報告やfMRI法(*1)に代表される脳機能イメージング研究から、右の下前頭皮質や前補足運動野と呼ばれる前頭葉にある複数の脳領域が関与していることが知られていました。さらに、私たちの研究(注)から、頭頂葉にある頭頂間溝領域も反応抑制に関わっていることがわかっていました。しかし、反応抑制が実現される際、これらの領域がどのように結びついて神経回路が形成されるのか、さらに回路の中でどのような時間順序で処理がされ情報が流れているのかはわかっていませんでした。そこで、本研究では最先端の脳機能イメージング手法を用いて反応抑制に関わるヒトの脳領域およびその神経回路構成の同定を試み、さらに非侵襲的脳刺激法であるTMS法(*2)を用いて情報処理の仕組みを調べました。

内容
研究グループは、健常被験者に反応抑制機能を調べる課題である「ストップシグナル課題」 (図1)を行ってもらいました。課題において被験者には左向きまたは右向きの矢印が画面に出た時に、矢印と同じ側のボタンをできるだけ早く押してもらいます(ゴー試行)。また、左右の矢印が出た直後に、上向きの矢印に変わるという試行(ストップ試行)をある一定の割合で出現するよう設定し、その時はボタンを押さないようにしてもらいました。
図1: ストップシグナル課題
課題遂行中の脳活動をfMRI法を用いて計測したところ、ストップ試行においてうまく止まれた際、すなわち反応抑制の際、前頭葉において下前頭皮質および前補足運動野、頭頂葉において頭頂間溝領域など複数の領域に活動が見られました(図2)。これらの領域の間の機能的結合性(*3)を調べ、グラフ理論を用いたネットワーク解析を行ったところ、下前頭皮質は腹側部と背側部の2つのサブ領域に分かれ、それぞれ別々のネットワークグループに属することがわかりました。

図2: 反応抑制における脳活動
次に、fMRI法で同定された脳領域に対しTMS法による刺激を課題遂行中に行い、これらの領域の活動を一時的に不活性化しました。刺激するタイミングを変えながら反応抑制の効率の変化を調べたところ、効率低下が起きるタイミングが脳領域によって異なり、3つのタイミングに分かれることがわかりました(図3)。

図3: TMS不活性化による反応抑制の効率低下
さらに、タイミングの一番早かった下前頭皮質腹側部が他領域に影響を及ぼすかを調べるため、連発TMS刺激を用いて下前頭皮質腹側部の活動を持続的に低下させ、その前後での下前頭皮質背側部や前補足運動野への刺激の効果を調べました(図4左)。すると、下前頭皮質背側部への刺激で変わらず反応抑制効率が低下した一方、前補足運動野への刺激による効果には変化が見られました(図4右) 。

図4: 連発刺激を用いた下前頭皮質腹側部の持続的活動の低下による影響
これらから、下前頭皮質腹側部と背側部はそれぞれ独立な情報処理の起点となっており、下前頭皮質腹側部から前補足運動野へ、下前頭皮質背側部から頭頂間溝領域へとそれぞれ情報が流れていくことで、反応抑制機能を生み出していることが明らかになりました(図5)。

図5: 今回の発見によりわかった2つの独立した情報処理回路
以上の結果から、反応抑制が実現される際には、下前頭皮質の2つのサブ領域を起点とした情報処理の回路は異なる時間順序で独立に働き、別々の認知的機能を担うことが明らかになりました。

今後の展開
本研究では、行動を抑制する際に働く脳の2つの神経回路の構成を示し、その中でどのような時間順序で情報が処理されていくのかを初めて明らかにすると共に、それぞれが別々の機能を担うことが示唆されました。今回の成果は、行動抑制に関わる神経メカニズムの全容解明につながるだけでなく、神経回路の科学的根拠に基づいた認知機能障害の予防・回復法の開発に貢献することが期待されます。また、fMRI法とTMS法を複合的に使い、行動に影響する刺激タイミングに着目した神経回路での情報処理を明らかにする今回の手法は、他の認知機能の研究にも応用可能と考えられ、ヒトのさまざまな認知機能に関わる神経回路の解明を飛躍的に進めることが期待されます。

用語解説
*1 fMRI法(機能的磁気共鳴画像法)
MRI(磁気共鳴画像装置)を使って、脳の血流反応を計測することにより、脳の活動を非侵襲的に測定する方法。fMRI法の基礎となっているBOLD法(Blood Oxygenation Level Dependent法)は、小川誠二博士(現・東北福祉大学 特別栄誉教授)によって発見されたもので、世界で広く用いられています。

*2 TMS法(経頭蓋磁気刺激法)
頭部にあてたコイルに瞬間的に電流を流すことで磁場が形成され、それに伴い組織内で生じる誘導電流により、非侵襲的に大脳皮質を刺激し、脳の活動性を変化させる方法。脳の機能を調べる非侵襲的な神経生理学的実験手法であるとともに、臨床的にも用いられ神経症状や精神医学的症状に有効な治療法とされています。本研究においては瞬時的に脳領域の活動を抑制する単発刺激法と、持続的に脳領域の活動を抑制する連発刺激法の2つが用いられました。

*3 機能的結合性
安静時に計測されたfMRI信号の時系列変化の共活動から計算される脳領域間の神経活動パターンの類似度。機能的結合性を調べることにより、脳における領域間のネットワーク的構造を調べることができます。

(注) Osada et al., 2019, Journal of Neuroscience 39, 2509-2521.(順天堂プレスリリース「自分を律する脳の仕組みに関わる新たな部位を発見 ~頭頂葉が行動の抑制を生み出す~」[2019年4月11日発表]参照)

原著論文
論文タイトル: Parallel cognitive processing streams in human prefrontal cortex: Parsing areal-level brain network for response inhibition.
論文タイトル(日本語訳):前頭前野における並列認知処理の流れ:反応抑制機能の脳内ネットワークの解明
著者:Takahiro Osada (筆頭著者), Akitoshi Ogawa, Akimitsu Suda, Koji Nakajima, Masaki Tanaka, Satoshi Oka, Koji Kamagata, Shigeki Aoki, Yasushi Oshima, Sakae Tanaka, Nobutaka Hattori, Seiki Konishi (責任著者)
著者(日本語表記):長田貴宏1、小川昭利1、須田晃充1,2、中嶋香児1,3、田中政輝1、岡哲史1、鎌形康司4、 青木茂樹4、大島寧3、田中栄3、服部信孝2、小西清貴1
著者所属:1 順天堂大学医学部生理学第一講座、2 順天堂大学医学部神経学講座、3 東京大学医学部整形外科学教室、4 順天堂大学医学部放射線診断学講座
掲載誌:Cell Reports(https://www.cell.com/cell-reports/home)2021年9月21日号に掲載されました。
DOI: https://doi.org/10.1016/j.celrep.2021.109732

なお本研究は、JSPS科研費(JP18K07348、JP21K07255)、武田科学振興財団による支援を受けて行われました。
また、本研究に協力頂きました被験者様のご厚意に深謝いたします。
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