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免疫の抑制系が医薬品による副作用発症をコントロールすることを発見

国立大学法人千葉大学
~副作用の個人差を生み出す要因を解明する糸口となる可能性~

 千葉大学大学院薬学研究院の青木 重樹 講師、伊藤 晃成 教授、薬学部6年生の桑原 佐季 氏、富山大学学術研究部薬学・和漢系(和漢医薬学総合研究所)の薄田 健史 助教らの研究グループは、「医薬品による副作用の個人差」を生み出す要因として、医薬品が生体の免疫を活性化する現象に加えて、その対となる抑制システムの大小も重要であることを発見しました。  今回発表する成果は、医薬品の副作用を起こしやすい体質がある人を判別するための手がかりを与えるものであり、今後研究を進めていくことで、副作用が発症するリスクを医薬品の開発段階や医療現場において予測できるようになることが期待されます。  本研究成果は、Communications Biology誌に2021年9月28日にオンライン公開されました。



研究の背景



 医薬品による副作用にはある特定の体質(遺伝子など)や環境により現れる個人差が関係すると考えられており、中には死亡例も報告されています。これらの可能性を医薬品の開発段階で見出すことは極めて困難とされており、市販後に多くの人が服用することで初めて明らかとなることが大きな問題となっています。
 これまでの研究から、副作用の発症に特定のヒト白血球抗原(HLA)(注1)が関わることが分かっていましたが、その一方で、特定のHLA保有者が必ずしも副作用を発症するわけではありませんでした(副作用の個人差)。例えば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の治療薬であるアバカビルは、HLAの中でもB*57:01遺伝子(注2)タイプを持つ人が服用した場合、副作用(皮膚障害を含む過敏症)を高確率に起こすことが知られており、代表格として最もよく研究が進められていますが、HLA-B*57:01を有していても約半数の人でしか発症しない理由は依然不明でした。動物モデルを用いた検討においても、免疫の活性化は起こるものの、臨床で認められるような顕著な副作用は観察されないことが問題となっていました。
 そこで私たちの研究グループは、副作用発症の有無に、免疫の活性化のみではなく、PD-1(注3)などに代表される免疫の抑制システムも重要な役割を担っているのではないかと考え、独自に作製したHLA-B*57:01遺伝子を導入したモデルマウスを用いて「副作用の個人差」を生み出す要因の究明を試みました。


研究成果



 本研究ではまず、通常のHLA-B*57:01遺伝子導入マウス(免疫抑制システムが機能している状態)にアバカビルを1週間経口投与させたときの過敏症発症の程度を評価しました。その結果、免疫の活性化は認められましたが、顕著な薬疹(副作用)は認められませんでした。その理由として、活性化したキラーT細胞(CD8+ T細胞)(注4)上にPD-1が高発現するなど、免疫の抑制系も同時にはたらいていることが解析を進めていく中で見つかりました。つまり、免疫の活性化と抑制が同時に起こり、生体内で免疫のバランスがつり合っているため、顕著な副作用が現れなかったと考えています(図左側)。
 そこで、免疫バランスを崩壊させるために、PD-1やヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)(注5)を欠損させたHLA-B*57:01遺伝子導入マウス(免疫抑制システムが破綻している状態)を用意し、同様に過敏症発症の程度を評価しました。その結果、免疫抑制システムが機能していないマウスでは、サイトカイン・脱顆粒因子(注6)の放出を伴ったキラーT細胞の活性化が観察され、さらにそれらの細胞の皮膚組織中への浸潤や顕著な薬疹症状も認められました。これらの結果から、免疫の抑制系が副作用の発症に対して防御的にはたらいており、それが正常に機能しなくなることで免疫のバランスが大きく活性化側に傾き、副作用が起こりやすくなったものと考えられます(図右側)。


研究成果の意義と今後の展望

 本研究では、最も代表的なHLA-B*57:01遺伝子とアバカビルの組み合わせを用いて、HLA-B*57:01遺伝子を保有する場合でも、免疫抑制システムが破綻し免疫バランスが保てていない人ほどアバカビル服用による薬疹が起こりやすくなる可能性を示しました。すなわち、「医薬品による副作用の個人差」を生み出す要因として、生体の免疫の活性化のみならず”抑制システムの大小”も重要な因子となりうることが見出されました。実際に、PD-1に対する抗体治療に伴ってまれに重症薬疹の副作用が起こることが最近報告されており、免疫抑制システムが正常にはたらかなくなることでそのような重篤な副作用の発症につながることが示唆されつつあります。現在、私たちの研究グループでは副作用発症における免疫抑制システムの重要性を明らかにすべく、その他の薬物とHLA多型との組み合わせでも追検証を進めているところです。
 今後の研究で、生体の免疫の抑制システムの大小を左右する未知のリスク要因を解明できれば、「HLA+薬物→副作用発症」の間にある仕組みの理解がさらに進むと考えられます。そして、将来的には、副作用が発症するリスクが高い人や医薬品を、開発段階でより正確に予測できるようになることが期待されます。また、医療現場でも医薬品の副作用が起こりやすい体質を持つ人を事前に調べられるようになれば、そのような人たちにリスクのある医薬品を服用することが防止でき、より安全な医療提供の実現が可能となります。

用語解説

(注1)ヒト白血球抗原(HLA):“自己”を特徴付ける細胞表面のタンパク質のこと。体内で自己と非自己を認識するための重要な免疫機構としてはたらき、侵入した異物(非自己)を免疫機能により排除することで、自己の恒常性を維持している。造血幹細胞移植や臓器移植では、HLAタイプの適合性が重要視される。
(注2)HLA-B*57:01遺伝子: HLA多型の一種で、白人の中で数%がこの遺伝子を保有している。アバカビルやフルクロキサシリンなど、複数の薬物との組み合わせで副作用発症のリスクが報告されている。
(注3)PD-1:過剰となった免疫のはたらきを抑えるブレーキ役となる免疫細胞表面にある分子。PD-1を発見した功績で本庶 佑 氏が2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞したことで有名となった。
(注4)キラーT細胞(CD8+ T細胞):細胞殺傷能力を有するCD8が陽性のT細胞。ウイルス感染細胞やがん細胞表面にあるHLA分子が提示する非自己の抗原を認識することで、それらの細胞を排除できるように活性化する。
(注5)ヘルパーT細胞(CD4+ T細胞):他の免疫細胞のはたらきを調節する司令塔の役割を果たしている、CD4が陽性のT細胞。キラーT細胞の活性化・分化を促進させる機能を有するタイプが集団の大半を占める一方で、過剰な炎症反応にブレーキをかける「制御性T細胞」もヘルパーT細胞の集団の中に含まれている。
(注6)サイトカイン・脱顆粒因子:免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質。免疫・炎症反応時に標的となる細胞に作用することで、増殖や分化・細胞死を誘導することができる。


研究プロジェクトについて

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(16K18932、17J03861、19H03386、20K22801、21H02640)、持田記念医学薬学振興財団、武田科学振興財団の支援を受けて行われました。


論文情報

掲載誌: Communications Biology
掲載日時: September 28, 2021 at 18:00 JST
論文タイトル: Regulation of the immune tolerance system determines the susceptibility to HLA-mediated abacavir-induced skin toxicity
著者: Takeshi Susukida, Saki Kuwahara, Binbin Song, Akira Kazaoka, Shigeki Aoki, Kousei Ito
DOI: https://doi.org/10.1038/s42003-021-02657-2
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