医療・医薬・福祉

小児ミトコンドリア心筋症の遺伝的基盤と長期予後に関する大規模調査報告

学校法人 順天堂
~ 日本人小児ミトコンドリア病223症例の分析から ~

順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学の岡崎敦子 准教授、岡崎康司 教授と、千葉県こども病院の村山圭 部長、埼玉医科大学小児科の大竹明 教授、北海道大学病院小児科の武田充人 講師らの共同研究グループは、生化学・臨床診断で基準を満たした18歳未満の小児ミトコンドリア病*1疑い患者666患者のうち、223例に対して原因遺伝子の同定に成功し、その223症例の遺伝的基盤、長期予後および臨床的特徴に関する大規模調査研究を行いました。その結果、心筋症を合併する症例は約20%に上り、非合併例より予後が悪いことが明らかになりました。中でも新生児発症・染色体構造異常*2を伴う左室肥大は極めて予後が悪いことがわかりました。この調査結果は、ミトコンドリア心筋症を診断する際の正確な情報源になるだけでなく、移植医療や創薬研究などへの活用なども期待されます。本研究成果はInternational Journal of Cardiology誌に掲載されました。




本研究成果のポイント


小児ミトコンドリア病223症例の遺伝的基盤、生命予後、臨床的特徴を明らかにした
新生児発症、染色体構造異常を伴う左室肥大は極めて予後が悪い事実を解明
診断率の向上および移植適応のエビデンスを含む治療法の確立への活用に期待


背景
ミトコンドリア心筋症*3は、ミトコンドリア病の一病型であり、心筋におけるミトコンドリアの機能異常により発症する心筋症です。一般的なミトコンドリア病と比べて予後が悪いとされていましたが、その原因遺伝子、臨床的特徴、長期予後について詳細はわかっていませんでした。さらにミトコンドリア心筋症が移植適応になるか否かの国内でのエビデンスは不足しています。岡崎教授らの研究グループは十数年にわたり、千葉県こども病院代謝科、埼玉医科大学小児科、北海道大学病院小児科と共同で、全国から紹介を受けたミトコンドリア病疑い症例の生化学診断と遺伝子診断に取り組んできました。本研究では、ミトコンドリア心筋症の遺伝的背景と長期予後、臨床的特徴の関係を明らかにすることを目的に、研究グループのこれまでの研究成果を活用し、臨床との強固な連携によるミトコンドリア病原因遺伝子と臨床データの大規模な調査と分析を行いました。

内容
本研究では、 2004年から2019年の研究期間において、生化学・臨床診断で基準を満たした18歳未満の小児ミトコンドリア病疑い患者666患者を対象に遺伝子解析を行ったところ、223例に対してミトコンドリア病の原因遺伝子の同定に成功しました。そして、その全症例において心筋症の詳細病型を含む臨床的特徴、長期生命予後を調査しました。遺伝的基盤の同定については、患者の血液、皮膚、罹患臓器サンプルから抽出したDNAを抽出し、核遺伝子*4およびミトコンドリアDNA*5の網羅的解析により行いました。その結果、114例の核遺伝子異常、89例のミトコンドリアDNA点変異、11例のミトコンドリアDNA単一大欠失、9例の染色体構造異常を認めました。臨床的特徴については、心筋症は全体の22%である46症例に認めました。心筋症の内訳は、全体の76%にあたる35例が肥大型心筋症で、拡張型心筋症は6例に、左室緻密化障害は5例に認めました。長期生命予後に関しては、中央値36週(12-77週)のフォローアップ期間中に、全体の38%である85例の死亡を認めました。心筋症症例の死亡率は、心筋症を有さない症例と比較して有意に高い結果となりました(図1)。
それぞれの結果を用いて多変量解析を行ったところ、左室肥大(ハザード比4.6)、新生児発症(ハザード比2.9)、染色体構造異常(ハザード比2.9)が全死亡に対する独立したリスク因子でした。左室肥大を認める患者のうち新生児発症/染色体構造異常を合併する21症例の死亡率は100%であり、新生児発症/染色体構造異常を合併しない14症例の死亡率(71%)より高い結果となりました(図2) 。
以上の結果から、心筋症を合併する症例は約20%に上り、非合併例より予後が悪いことが明らかになりました。中でも新生児発症・染色体構造異常*2を伴う左室肥大は極めて予後が悪いことがわかりました。

今後の展開
本研究は、世界で初めてミトコンドリア心筋症*3の遺伝的基盤、臨床的特徴と長期予後に関する大規模データを分析し、その調査結果をまとめました。本成果は、ミトコンドリア病の中で頻度が高いにも関わらず、これまで診断がつかない例もあった小児ミトコンドリア心筋症を、正確かつ迅速に診療する際の正確な情報源として臨床現場において活用されることが期待されます。また、ミトコンドリア心筋症の新たな病態解明と病因遺伝子に基づく治療開発、さらに心臓移植に関するエビデンス構築や本邦で展開されている創薬研究にも貢献できることが期待されます。


図1: 心筋症症例と非心筋症症例の生存曲線
心筋症症例(46症例:赤)の予後は、心筋症を有さない症例(177症例:青)と比較して有意に悪かった。


図2:左室肥大に新生児発症/染色体構造異常を合併した症例の生存曲線
左室肥大に新生児発症を合併した症例(緑)は左室肥大単独例よりも予後が悪く(左図)、
左室肥大に染色体構造異常を合併した症例(緑)は左室肥大単独例よりも予後が悪かった(右図)。
青は左室肥大を認めない症例。

用語解説
*1  ミトコンドリア病: ミトコンドリア病とは、ミトコンドリアの働きが低下することが原因で起こる病気の総称です。遺伝子異常によるミトコンドリア呼吸鎖障害で起こる先天代謝異常症です。出生5,000人に1人の割合で発症し、いかなる臓器・組織、年齢、遺伝形式でも発病します。
*2  染色体構造異常: 染色体異常は数的異常と構造異常に分類され、構造異常には欠失、重複、逆位、挿入などの異常が含まれます。
*3 ミトコンドリア心筋症: ミトコンドリアの構造、機能に関わる遺伝子の異常によって生じる心筋症
*4 核遺伝子: 核ゲノム上に存在する遺伝子で26000個以上存在すると言われています。
*5 ミトコンドリアDNA:  ヒトのミトコンドリアゲノムは長さ約16Kbの環状二本鎖DNAで、母系遺伝し男性も女性も母親から受け継ぎますが、男性のミトコンドリアDNAは子孫に伝達されません。

原著論文
本研究はInternational Journal of Cardiology誌の2021年10月15日号Volume 341に掲載されました。
タイトル:Long-term prognosis and genetic background of cardiomyopathy in 223 paediatric mitochondrial disease patients
タイトル(日本語訳):小児ミトコンドリア223例におけるミトコンドリア心筋症の長期予後および遺伝的背景
著者: Atsuko Imai-Okazaki, Ayako Matsunaga, Yukiko Yatsuka, Kazuhiro R. Nitta, Yoshihito Kishita, Ayumu Sugiura, Yohei Sugiyama, Takuya Fushimi, Masaru Shimura, Keiko Ichimoto, Makiko Tajika, Minako Tominaga, Tomohiro Ebihara, Tetsuro Matsuhashi, Tomoko Tsuruoka, Masakazu Kohda, Tomoko Hirata, Hiroko Harashima, Shuko Nojiri, Atsuhito Takeda, Akihiro Nakaya, Shigetoyo Kogaki, Yasushi Sakata, Akira Ohtake, Kei Murayama, Yasushi Okazaki
著者(日本語表記): 岡崎(今井)敦子、松永綾子、八塚由紀子、新田和広、木下善仁、杉浦歩、杉山洋平、伏見拓也、志村優、市本景子、田鹿牧子、冨永美奈子、海老原知博、松橋徹郎、鶴岡智子、神田将和、平田智子、原嶋宏子、野尻宗子、武田充人、中谷明弘、小垣滋豊、坂田泰史、大竹明、村山圭、岡崎康司
著者所属:順天堂大学 難治性疾患診断・治療学講座/難病の診断と治療研究センター
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijcard.2021.06.042

本研究は、AMED難治性疾患実用化研究事業(JP20ek0109468, JP19ek0109273)、AMEDゲノム創薬基盤推進研究事業(JP20kk0305015)、JSPS科研費基盤B(JP19H03624)、基盤C(JP20K08497), 若手(JP18K15863)、文部科学省私立大学研究ブランディング事業の支援を受け、多施設との共同研究の基に実施されました。本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。
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