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腸内細菌により作られるオメガ3脂肪酸代謝物αKetoA(アルファケトエー)の抗炎症作用、食と健康をつなぐ腸内細菌の働きを解明 “ポストバイオティクス”

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
アレルギー性皮膚炎や糖尿病を抑制


腸内細菌によるオメガ3脂肪酸 の代謝と「αKetoA」の抗炎症作用

【研究成果のポイント】
● アマニ油やエゴマ油に含まれるオメガ3脂肪酸がヒト腸内細菌によって代謝され、αKetoAが産生されることを見出しました。
● αKetoAは、免疫細胞マクロファージに作用しアレルギー性接触皮膚炎や糖尿病の病態形成を抑制することを動物モデルで明らかにしました(下図参照)。

● 食品成分を代謝する腸内細菌は個人差が大きいことから、この組み合わせを考慮することで、高度な個別化/層別化栄養・医療の実現が期待されます。

【概要】
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターの國澤 純(くにさわ じゅん)センター長と同・長竹 貴広(ながたけ たかひろ)主任研究員らは、食事で摂取したオメガ3脂肪酸*1の健康増進作用の新しいメカニズムとして、腸内細菌による代謝*2が重要な役割を担っていることを明らかにしました。
共同研究:
医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター、京都大学、愛知がんセンター、大阪大学、浜松医科大学、東北大学、東京大学、筑波大学、神戸大学、高崎健康福祉大学、慶應義塾大学、理化学研究所、横浜市立大学、周南市立新南陽市民病院、早稲田大学。

【背景】
a-リノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3脂肪酸は健康増進のためのサプリメントなどとして利用されていますが、その効果には個人差があることが指摘されています。また、近年、腸内細菌が健康に関与することが明らかになり、そのメカニズムのひとつとして、食品成分を基質として腸内細菌が産生する機能性代謝物(ポストバイオティクス)の作用に注目が集まっています。食の効能を規定する因子として腸内細菌の代謝に着眼することで、高度な個別化/層別化栄養・医療*3の実現に繋がります。

【研究内容】
本研究では、アマニ油やエゴマ油に豊富に含まれるオメガ3脂肪酸であるa-リノレン酸が、腸内細菌にユニークな飽和化代謝を経てαKetoAに変換されることを見出しました。αKetoAの効能検証の結果、強力な抗炎症活性があることを見出しました。αKetoA は、免疫細胞のひとつであるマクロファージ*4に作用してアレルギー性接触皮膚炎を抑えることや、糖尿病の病態を改善することを動物モデルで明らかにしました。さらに、αKetoAの抗炎症作用の分子メカニズムとして、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体g(PPARγ)*5に作用することも明らかになりました。αKetoAはヒト糞便中でも検出され、a-リノレン酸を多く摂取することでαKetoAの産生量も増加しました。一方で、αKetoAの産生量には個人差が認められ、腸内細菌叢*6が異なることが要因と考えられます。以上のように、今回の研究によって動物モデルとヒト検体でαKetoAの存在が確認され、動物モデルにおいて炎症性疾患に対する有効性が見出されました。ヒトでの有効性は今後の検討課題です。

■本研究成果は1月10日に『Mucosal Immunology』にオンライン掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41385-021-00477-5

【本研究で今後期待できること】
αKetoAの産生を担う腸内細菌の同定を含め、ポストバイオティクスの産生における腸内細菌と食事の関係を明らかにし、健康状態や病態と結びつけることで、個人ごとに最適な栄養指導や医療を提供する個別化/層別化栄養・医療の実現が期待されます。

【用語解説】
*1オメガ3脂肪酸
脂肪酸の化学構造に基づいた分類です。オメガ3脂肪酸はマウスやヒトに代表される哺乳類の体内では合成できず、食事により摂取する必要のある必須脂肪酸です。
*2代謝
ある物質を基にして別の物質が作られる化学反応のことです。
*3個別化/層別化栄養・医療
患者さんの体質や、病気の特徴に合わせて行う栄養指導や医療のことです。
*4マクロファージ
外来異物などを貪食し生体防御機能を担います。炎症物質を分泌することで様々な炎症性疾患の発症にも関与します。
*5ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体g
核内受容体の1種で、転写制御因子としてだけでなくシグナル伝達の制御にも働きます。
*6腸内細菌叢
ヒトの腸管には1000種類100兆個もの細菌が存在しており、その全体を指して腸内細菌叢と呼びます。腸内フローラと同義です。

【参考】
アレルギー性接触皮膚炎について:本研究で用いたアレルギー性接触皮膚炎モデルは、マウスやカニクイザルにハプテンを塗布することで得られるもので、皮膚の腫脹や発赤、炎症性細胞の浸潤などの症状が現れます。化粧品や香水、ヘアケア用品などの成分、指輪やイヤリング、腕時計などの金属、衣類や洗剤、漆など、身の周りにあるあらゆる物質が原因となり、原因物質と接触した部位に炎症症状が現れます。
(アレルギー学会・厚生労働省「アレルギーポータル」より参照)

糖尿病について:本研究で用いた糖尿病モデルは、マウスに高脂肪・高糖質餌を与えることで得られるもので、2型糖尿病モデルです。一般的に生活習慣病と称されるタイプの糖尿病が2型糖尿病で、慢性的な炎症反応によりインスリンの作用が阻害されることが高血糖病態の形成に関与しています。
2012年の調査で、糖尿病が強く疑われる人が全国に950万人存在する事が分かっています。そして、その多くが2型糖尿病です。糖尿病患者は日本だけでなく世界中で増え続け、2014年の調査では3億8,670万人いるとされ、今後有効な対策を施さないと、2035年には5億9,190万人に膨れ上がる事が予測されています。
(日本内分泌学会HPより参照)

【本発表キーワード/分野】
キーワード:オメガ3脂肪酸、腸内細菌、代謝物、ポストバイオティクス、抗炎症作用、マクロファージ、アレルギー性接触皮膚炎、糖尿病
分野:食品化学、微生物学、免疫学、医学

【特記事項】
本研究成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の免疫アレルギー疾患実用化研究事業における「高機能性脂質代謝物を用いたアレルギー性皮膚炎制御法の開発」及び内閣府PRISM事業における「糖尿病個別化予防を加速するマイクロバイオーム解析AIの開発」の一環として得られたとともに、厚生労働省、内閣府、文部科学省、日本学術振興会、科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構、東京大学、小野医学研究財団、キャノン財団からの助成を受けて行われました。

【論文タイトル】
Intestinal microbe-dependent w3 lipid metabolite αKetoA prevents inflammatory diseases in mice and cynomolgus macaques

【著者】
Takahiro Nagatake, Shigenobu Kishino, Emiko Urano, Haruka Murakami, Nahoko Kitamura, Kana Konishi, Harumi Ohno, Prabha Tiwari, Sakiko Morimoto, Eri Node, Jun Adachi, Yuichi Abe, Junko Isoyama, Kento Sawane, Tetsuya Honda, Asuka Inoue, Akiharu Uwamizu, Takashi Matsuzaka, Yoichi Miyamoto, So-ichiro Hirata, Azusa Saika, Yuki Shibata, Koji Hosomi, Ayu Matsunaga, Hitoshi Shimano, Makoto Arita, Junken Aoki, Masahiro Oka, Akira Matsutani, Takeshi Tomonaga, Kenji Kabashima, Motohiko Miyachi, Yasuhiro Yasutomi, Jun Ogawa, and Jun Kunisawa

【掲載雑誌】
Mucosal Immunology
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