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20~30代女性に多く発症
難病「多発性硬化症」が増加

新潟大学脳研究所の河内泉講師

新潟大学脳研究所の河内泉講師

 大事なことは、社会や企業、家族らのサポートだ。職場で勇気を出して病気のことを告げたら通院の時間を取ってくれたり、疲れたときに「休憩室で休んできていいよ」と配慮してくれたりすることで、患者も普通の会社生活を送ることができる。毎日、自分で注射をするのはかなり負担になる。河内講師は「パートナーの『時間だから、注射をしようね』というひと言だけで、患者はすごくホッとし、やる気になる」と言う。

 ◇T細胞、自身の体攻撃

 東京都内で5月中旬、NPO法人「MSキャビン」(中田郷子理事長)が主催する患者や家族向けのセミナーが開かれた。講師を務めた東京女子医科大学八千代医療センターの大橋高志・神経内科長が基本的な事柄を説明し、参加者の質問に答えた。

 MSはウイルスが体内に入ってくると、リンパ球の一種であるT細胞がウイルスを攻撃しようとして間違って自らの体を攻撃してしまう。どこに炎症が起きるかによって、感覚、視力、運動、平衡感覚など障害の種類が異なる。

MSの脳の状態

MSの脳の状態

 遺伝子が関わっていることは間違いないが、地域によって発症率に差がある。北米など高緯度の地域に患者が多いのは、日照時間が短いためビタミンDが不足気味になり、これがMSを引き起こすという説もある。日本で患者が増えているのは「食生活の欧米化に関係しているのではないか」との見方もあるが、これでは米国でも患者が増加している現状をうまく説明できない。

 ◇カギは早期の治療

 MSは最初、単一の症状を示す状態から「再発・寛解型」に進む。何も治療をしないでいると、このうち8割程度が「2次進行型」に移行する。脳の中で病巣が増えて体の機能障害が進み、「やがて寝たきりになり、肺炎などで死亡する可能性もある」と大橋科長は言う。「2次進行型になると、残念ながら現状できることはあまりない」とした上で、「だから、できるだけ早期に治療することが重要だ」と強調する。

八千代医療センターの大橋高志・神経内科長

八千代医療センターの大橋高志・神経内科長

 効き目が強い薬の方が、2次進行型に進むことを遅らせることができる。MRI(磁気共鳴画像装置)による脳の画像診断で早い段階でMSという診断ができれば、専門医の判断で効き目の強い薬を投与することが有効だと、大橋科長は力説する。患者の妊娠・出産に関する不安も付きまとう。しかし、大橋科長は「効力が強い薬でも専門医の指導の下でうまく使用すれば、安全に妊娠・出産することができる」と話す。

 ある参加者の姉は40歳の時に発症、現在53歳になる。茨城県から東京都小平市の国立精神・神経医療研究センターに通っていたが、付き添うことが高齢の父親にとってつらくなってきたという。大橋科長は「通いやすい所の医療機関を紹介してもらうのがよいだろう。そこの医師も後ろに専門医が控えていると安心だ」とアドバイスした。 (鈴木豊)

 【MSキャビンの連絡先】 電話03・5604・5042
              メール info@mscabin.org

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