治療・予防

暑さに慣れていない子供 
例年より高い熱中症のリスク

 今年の夏は平年以上の暑さが予想されている。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が熱中症のリスクを上げる恐れもある。特に、体調の不調を言葉で訴えられない乳幼児や、夏休みが短縮される小学生は熱中症対策が重要になってくる。

 国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の救急診療科の植松悟子診療部長(小児救急医療)は「外出自粛や長い休校で、子供たちが少しずつ季節の変化に対応する『暑熱順化』が遅れがちで、暑さに体が慣れきっていないことが想定される」と問題を指摘する。

フェースシールドを着けた子供たち

フェースシールドを着けた子供たち

 ◇登下校減った影響

 具体的に言えば、通学だけをとっても、毎日登下校の過程で少しずつ季節の変化に体を慣らす効果がある。しかし、今年は休校により数カ月間、自宅待機で外出も控えていた。その分、発汗など体温調整機能が季節の変化についていかず、熱中症になりやすくなっている。

 植松診療部長は「休校期間や自宅待機の分を埋めるためにも、これからの季節はより注意して細かく段階を踏んで順化を進めていくことが、熱中症や体調不良を防ぐためのカギになる。これは、幼児や児童だけではく中高生や成人にも共通する点だ」と強調する。

 ◇少しずつ体を慣らす

 通常の小児救急外来の受診は1~2歳児が多いが、熱中症に関する受診では9歳前後が多い。「クラブ活動だけでなく、遊ぶのに熱中して多少の体調不良を無視して遊びを続けてしまう子も多い。中学生や高校生の部活などでも同様の傾向があるだろうから、ある程度大きくなってからも安心しないでほしい。そして例年にまして小まめな水分補給と休憩が必要だ」と植松診療部長はアドバイスしている。

国立成育医療研究センターの植松悟子診療部長

国立成育医療研究センターの植松悟子診療部長

 「長期間自宅に居るという環境が続いたので,日常生活へのリハビリという気持ちで外に出ることから始め、こまめに休憩することが必要。最初はけがをした後のリハビリくらいの負荷と休憩頻度から始め、休憩時は涼しく風通しの良い場所で十分な水分補給をしながら休むこと。その後も、15分程度活動したら休憩を挟む段階から始め、少しずつ休憩の間隔を開けていくのが望ましい」

 ◇長時間の授業を避ける

 もう一つの問題は、休校期間の授業の遅れを埋めるために多くの学校で取られる夏休みを短縮措置だ。校舎への空調の導入は進んでいるが、全校全教室に普及しているとはいえないのが実情だろう。

 「今年のように暑熱順化が十分でない児童・生徒が、空調のない暑い教室で長時間の授業を受けるのは熱中症のリスクだけでなく、体力の消耗や集中力の減退などが心配される。こまめな水分補給だけでなく、授業でも最初は15分前後ごとに短い休みを取るような配慮や、比較的涼しい午前中だけの短縮授業のような工夫が必要だろう」と植松診療部長は指摘する。

マスクを着けて商店街を歩く少女

マスクを着けて商店街を歩く少女

 ◇救急車も選択肢に

 家庭での対応も大切だ。例年にもまして体力を消耗している可能性があるので、十分な睡眠と食事を取らせる。特に乳幼児の7場合、ちょっとした食欲不振や不機嫌になるといった兆候を、保護者をはじめとした大人が見落とさないようにしたい。

 そして発熱などの兆候があれば、涼しいところで休ませて経口補水液などでの水分補給に努める。それでも症状が改善しない場合や受け答えがおぼつかない時は、医療機関を受診する。

 「新型コロナウイルス感染症の感染拡大以来、救急外来だけでなく通常の医療機関でも発熱患者の受け入れを制限していることが少なくない。かかりつけ医がいれば、受診前に電話で受け入れてくれるか確認し、受け入れていない場合は都道府県ごとにある電話相談で(受診先を)探すか、救急車を呼ぶことを考えてほしい」

 ◇2歳未満児はマスク着けないで

 一方で影響が心配されているマスクについて植松診療部長は「呼吸への影響はあるだろうが、マスクと熱中症に強い因果関係は認められない」としながらも、「屋外の運動時などでは、よほど周囲と密集しない場合は外してもいいのでは」と話している。

 同センターは「こどものマスクQ&A」という冊子を作成し、ホームページ(HP)でも公開している。冊子ではマスクによる予防効果などを説明した上で、限界やデメリットも紹介。「熱中症が心配な暑いときや運動するときなどはマスクをしないでね」などと、状況に応じて着用しない方がよい場面もある、と注意を喚起している。中でも、2歳未満の幼児については呼吸の障害になったり、表情を周囲が見にくくなったりするので、着用しないよう呼び掛けている。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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