治療法開発進む―肺がん
~発症メカニズム解明も(熊本大病院 坂上拓郎教授ら)~
肺がんは年間の死亡者数が約7万6000人とがんの中で最も多い。難治がんの一つであるが、この20年余りで治療法や発症メカニズムの解明も進んでいる。熊本大病院(熊本市)呼吸器内科の坂上拓郎教授、濱田昌平特任助教らのグループは、発がんと大気汚染物質との関連に着目している。

シリカ吸入と肺がん
◇有効な薬が次々
進歩に大きく寄与したのは、2002年に承認された分子標的薬だ。がんの増殖に関わるタンパク質の働きを阻害する飲み薬で、現在まで数種類の分子それぞれに薬が承認されている。
例えば、肺がん患者の一部は「EGFR」という分子に遺伝子変異があり、細胞増殖のスイッチが入ったままになる。そのような患者にEGFRを標的とする薬を使うと、進行、再発した場合でも延命効果がある。
EGFR遺伝子変異はアジア人、喫煙歴のない人、女性に多く見られる。なぜ変異が起きて肺がんを発症させるのかは分かっていない。
◇大気汚染に着目
坂上教授らは、大気中に浮遊する微小な粒子状物質「PM2.5」に含まれるシリカ(二酸化ケイ素)が、EGFR遺伝子変異を持つ肺がんに関連するとみている。
「以前から、鉱山や採石などの業務でシリカを繰り返し吸入している人は、特定の肺疾患になりやすいことが分かっていました。海外では、PM2.5とEGFR肺がん発症との関連が示唆されています」
そこで、熊本大病院で21~22年に手術した肺がん患者174人の組織標本を特殊な顕微鏡で観察した。肺に一定量以上のシリカが見られた高沈着群は72人、それより低かったのは102人だった。統計学的に解析すると、シリカ高沈着群はEGFR肺がんの発症リスクが低沈着群の約3.4倍だった。
坂上教授によると、シリカ沈着と肺がんの関連を示した研究は初めて。「シリカのような有害物質を常に吸入していると、肺に炎症が生じます。それに伴って作られるタンパク質がEGFR変異に関わるのかもしれません。大気汚染物質に着目した新たな予防法につながる可能性がある」(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/06/30 05:00)
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