治療・予防

コグニティブフレイル
~要介護と認知症のリスク(杏林大医学部付属病院 神崎恒一教授)~

 加齢に伴う認知機能低下は「軽度認知障害(MCI)」、加齢により身体機能が衰えた状態は「脆弱(ぜいじゃく)さ」を意味する「(身体的)フレイル」と呼ばれる。それぞれ将来的な認知症、要介護リスクの危険因子とされるが、両者が共存する「コグニティブ(認知的)フレイル」では、リスクはさらに高まるという。杏林大医学部付属病院(東京都三鷹市)高齢診療科の神崎恒一教授に聞いた。

症状が進むリスクはあるが改善も見込める

症状が進むリスクはあるが改善も見込める

 ◇要介護リスク3.9倍

 MCIもフレイルも、それ自体は病気ではない。ただし、フレイルのない人に比べある人では認知機能が低下するリスクは高まり、MCIから認知症に至るとフレイルが進行しやすいという。

 コグニティブフレイルも病気ではないが、神崎教授は「MCIやフレイルと同様、放置すれば将来的な認知症や要介護リスクが高まる状態です」と指摘する。

 事実、65歳以上の高齢者約1万人を対象に行った国内の研究では、健康な人と比べた2年後の要介護リスクはMCIのみで2.09倍、フレイルのみで2.40倍、コグニティブフレイルで3.86倍と報告されている。

 さらに、神崎教授が率いる研究グループが、杏林大学医学部付属病院の物忘れ外来を受診した65歳以上の高齢患者を対象に研究を行ったところ、MCIが認められた患者に比べコグニティブフレイルが認められた患者では、自覚がなくても舌圧が低く、栄養状態が良くなかったという。「舌圧が低いことで、かんで飲み込みやすくする嚥下(えんげ)機能の低下にもつながる可能性があります」

 ◇人付き合いが重要

 病気ではないために、確立した治療法がないのが現状だ。「ただ、改善が期待できる状態ですので、早い段階で複数の対策を講じる『多因子介入』が有効とされています」

 認知症リスクが高いMCIの高齢者を対象とした日本の多因子介入研究(J―MINT)によると、週1回、90分の運動と認知機能改善指導、栄養指導、生活習慣病治療など複数の対策を18カ月間行ったところ、認知機能の改善、食事の多様性、歩行速度の改善などの有効性が示されたという。

 「改善のためには人付き合いが重要です。積極的に外出し、人と交流しながら趣味や運動、おしゃべりを楽しんでください。黙々と読書や脳トレに向き合うだけでは、コグニティブフレイルの改善には十分有効とは言えません」と神崎教授はアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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