子どもをむしばむ「教育虐待」
~本人の意思尊重を(慶応大 高橋孝雄名誉教授)~
子どもの心に負の影響を及ぼす「教育虐待」。慶応大(東京都新宿区)の高橋孝雄名誉教授(小児科)は「教育熱心と教育虐待は紙一重」と語る。

教育虐待
◇「子どものために」が虐待に
教育虐待は、子どもの意思を無視して目標を設定し、過度な努力を強いることで心身に深刻な影響を与えること。しかし、親は自分が虐待していることを自覚していない。
「子どもを思っての『勉強しなさい』という励ましが、気付いた時には虐待となっている。後になって、『教育虐待だったのか』と振り返り、後悔することになります」
教育虐待は「今、頑張っておけば将来、幸せになれる」という気持ちで始まり、やがて模試の成績や有名校合格が目的となる。大事なのは、子どもの気持ちに寄り添って助言し、子どもに意思決定権を与えることだ。
◇しっかり休む
教育虐待の疑いで受診するのは、小学校高学年に多いという。「症状は頭痛、食欲不振、不眠など。不登校もあります」
親は問題の早期解決と、子どもが受験勉強に再び臨めるようになることを求めて受診する。しかし、高橋名誉教授は「受験のための治療はしない」と断言。親が「問題の本質は教育虐待」と気付くことが先決だからだ。「なかなか納得していただけません。子どもが『つらい…』と吐露した時、はっと気付く場合もありますが」
子どもが自ら塾に行きたがっている、進学を望んでいる、と主張する親も多いが、実は、子どもは親の期待に応えることに必死で、本音を吐けないでいる。
不登校の子どもに関しては、『医師の指示があるまで登校は不可』という診断書が治療効果を発揮することが多いです」。高橋名誉教授は「午後からでも登校させたい」「塾にだけは行かせたい」という親の要求は受け入れないという。
教育虐待で傷ついた子どもの回復は、心の底から安心して休むこと以外にない。「しばらく学校に行かなくても、志望校に合格しなくても、親が子どもを虐待したことを後悔するよりはるかにましです」と高橋名誉教授は力を込める。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/06/20 05:00)
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