特定の場面で押し黙る
~不安から「場面緘黙」(信州大学 奥村真衣子助教)~
家庭では話せるのに、学校など特定の場面で話せなくなる「場面緘黙(かんもく)」は、人見知りや恥ずかしがり屋などの性格的な問題ではなく、過度の不安や緊張からくる精神疾患の一つ。日本場面緘黙研究会理事で、信州大学術研究院教育学系(長野市)の奥村真衣子助教に聞いた。

学校などでは話せなくなる
◇不登校に進展も
「『緘』は封を閉じる『封緘』に使われる漢字で、緘黙は辞書的には口を閉ざして言葉が発せられない状態を指します」と奥村助教。原因やメカニズムは完全には分かっていないが、生まれつきの性質と環境要因が混在すると考えられている。
言葉の意味が理解でき、話す能力はあるにもかかわらず、特定の場面で話せなくなってしまうのが特徴。家の外では誰とも話せなくなる、特定の教師や友達とは話せる、音読はできるなど、表れ方はさまざまだ。
「幼稚園や保育園の入園をきっかけに発症するケースが多いです。入園前から引っ込み思案だった子もいれば、それまで抑制的な特徴がなかったのに園では話せなくなってしまう子もいます」
問題は、対人コミュニケーションが妨げられてしまうこと。孤立し、不登校になり、引きこもってしまうときもあるという。
医学的には、不安症群に分類される。症状が1カ月以上続けば、性格の問題ではなく場面緘黙を疑う。ただ、精神科医の間でも理解は十分とはいえず、場面緘黙の診断がつかない場合もあるという。
◇暴露療法が有効
話せない状態が1カ月以上続くようなら、通っている園や学校、地域の保健センターなどに相談するとよいという。「ただ、すべての相談窓口が対応可能なわけではないので、かかりつけの小児科に相談し、児童精神科を紹介していただくのもよいでしょう」。紹介先は不安症を専門とする医師が望ましいという。
治療の第1選択肢は心理療法の一つである行動療法的アプローチ。中でも有効性が認められているのは、不安や恐怖の原因となる刺激に徐々に触れさせ、それらの症状を次第に緩和させる段階的暴露(エクスポージャー)だ。「例えば、誰もいない教室で保護者と二人で音読をすることから始め、徐々に不安の段階を上げて最終的にクラスでの発話につなげます」
不安症状が強ければ、医師の判断により抗不安薬などが処方されるケースもあるが、暴露療法も同時に行われるのが一般的だ。
「場面緘黙は性格の問題と捉えられがちで、支援につながりにくい障害です。早い段階で支援に結びつけば改善しやすいので、当てはまる症状があれば早めに相談や受診をしてください」と、奥村助教はアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/06/23 05:00)
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