治療・予防

エネルギー産生に障害
~長鎖脂肪酸代謝異常症(東京慈恵会医科大付属病院 大石公彦教授)~

 患者が少ない希少疾患の一つで、脂肪を燃やす仕組みが機能しない長鎖脂肪酸代謝異常症。日本と米国でこの病気の診療経験を持つ東京慈恵会医科大付属病院(東京都港区)小児科の大石公彦教授は、食事療法が重要と話す。

長鎖脂肪酸代謝異常症

長鎖脂肪酸代謝異常症

 ◇年50人の希少疾患

 人は、食事中の栄養素をエネルギーに変えて活動している。主に脂質を利用して24時間休みなく拍動する心臓や、糖質を主に使う脳がその例だ。空腹などで糖質由来のエネルギーが枯渇すると、細胞内で脂肪を燃やして対応する。

 長鎖脂肪酸代謝異常症は、脂肪の中でも「長い鎖」の構造を持つ脂肪酸の燃焼に必要な酵素が生まれつき備わっていないことが原因。年間の発症患者数は10~50人と極めて少ない。

 患者は空腹、飢餓や激しい運動、感染、発熱、疲労などにより、普段より多くのエネルギーが必要になっても増産できない。そのため、エネルギーを多く消費する心臓、肝臓、骨、筋肉などが障害を受ける。

 大石教授によると、乳幼児では、血糖を適正な範囲に保てず、低血糖を起こす。低血糖から意識障害やけいれん発作に至ることもある。成人では、感染症などの身体的ストレスが生じて筋肉の細胞が壊れると、入院や緊急治療が必要となる。

 食事療法を主に

 治療のポイントは〔1〕体内で利用できないタイプの脂肪の摂取を減らすこと〔2〕身体的ストレス時のエネルギー不足を糖質などで補うこと―だ。

 〔1〕では、特にサラダ油、オリーブ油、バター、マーガリンなどの長鎖脂肪酸を含む油脂を減らす。代わりに、代謝できる市販の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)オイルをエネルギー源に利用する。〔2〕では、長時間の空腹や激しい運動を避け、必要な糖質を摂取するなどの工夫をする。

 「こうした対応で、ある程度の症状の予防や改善は可能ですが、十分ではありません」と大石教授。米国で使われている新薬の国内導入も見込まれ、入院を減らすなどの一歩進んだ効果が期待されている。

 この病気を含め、生まれつきの病気を早期に見つけるために、「新生児マススクリーニング」という検査が行われている。大石教授は「発症前に見つけて治療を開始すれば、多くの場合で生活の質の改善が期待できます」と説明する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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