医療機関選びに注意
~マウスピース矯正(日本臨床矯正歯科医会 佐藤国彦副会長)~
透明なマウスピース型装置を用いた歯の矯正は、ワイヤによる矯正に比べて目立ちにくく、比較的痛みが少ない、などの理由から人気が高まっている。ただし、日本臨床矯正歯科医会(東京都豊島区)の佐藤国彦副会長は「近年、マウスピース矯正は急速に普及しましたが、『かめない』『治らない』といったトラブルや相談も増えています」と話す。

トラブルの原因
◇一部治療には限界も
マウスピース矯正は、口腔(こうくう)内をスキャンしたデジタルデータを基に作製した装置を1~2週間ごとに交換しながら、1日20時間以上装着して歯を少しずつ動かす方法。歯磨きや食事の際は取り外しができ、金属アレルギーでも治療が可能だ。ただし素材によってはマウスピースのアレルギーも存在する。
個人用に作成したマウスピースを必要な時間、しっかり装着することが治療であり、装着するかしないかは自己管理にかかる部分が大きい。そのため、いったん治療が始まると歯科医師の関与は少ない。「装着時間や装着方法を守り、正しく使わないと望む効果は得られません。当初の治療計画から外れた場合は軌道修正が必要ですが、歯科医師に矯正歯科の専門知識がないと適切な対応は難しいです」
弾力の少ないプラスチック製マウスピースだけでは、対応できない症例もある。「重度な出っ歯や受け口など、抜歯を要する不正咬合(こうごう)や顎の骨格的な問題がある場合は、治療に限界があります」
◇常勤の矯正歯科医の有無
2024年に日本臨床矯正歯科医会のオンライン相談窓口に届いた苦情や相談のうち、マウスピース矯正に関するものは2割を超えた。具体的な内容は「かみ合わせが悪化した」など、医師や歯科技工士ら術者の技量などに関する問題が約6割、医師を変える転医や治療中止、治療費に関するものが3割超だった。
佐藤副会長は「ワイヤ矯正も選択でき、不測の事態の際にリカバリーできる常勤の矯正歯科医がいるかが重要です」と話す。最初の検査で頭部X線写真を含めた精密検査を行い、マウスピース矯正の適応を分析、診断の上、治療をしているかがポイントになるという。
治療を受けることを決めるまでは、十分検討する。例えば、治療の契約書を交わすまでマウスピースの発注費が生じないことや、転医や治療の中止に備え、治療の進行に合わせた治療費精算の基準も確認したい。
「矯正歯科治療は長い期間がかかります。治療をせかす医療機関は避け、契約を書面で交わす所での治療をお勧めします」と佐藤副会長は助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/07/04 05:00)
【関連記事】