高血圧症、夏場の薬の効き過ぎに注意
~脳梗塞のリスクも~
病院や家庭で測定するたびに数値が気になるのが血圧。特に高血圧症と診断されている人は数値の変化に一喜一憂することもあるだろう。そんな人の中には夏になって数値が改善してくる人はいないだろうか。発汗が増して水分や塩分がいつも以上に体外に排出されるだけでなく、薬によっては降圧効果が増してくるためだ。しかし、単純に喜んではいられない。病状の改善を喜ぶよりは薬の効き過ぎやそれに伴う低血圧に注意しなければならない。

横尾隆教授
「最近のARBやACEIと言われる種類の降圧剤は、体内の水分量が減少するとレニンというホルモンが活性化して血圧を下げる働きが強くなる。昨年のような猛暑の中、冬と同じ量の降圧剤の服用を続けていると、逆に低血圧を招きやすくなる場合がある」。
東京慈恵会医科大学附属病院(東京都港区)腎臓・高血圧内科の横尾隆主任教授は、こう警告する。対策としては夏の前後で血圧の変化に合わせた降圧剤の処方の見直しが有効だが、その前提として必要なのは日々の血圧の変化を小まめに測定し、主治医に示すことだ。
横尾教授は「暑さにつれて発汗量が増えれば体内の水分と塩分量は減少して血圧は下がり、むくみは少なくなる。しかも、最近の主流の降圧剤は水分の減少に応じて降圧作用が強まるものが多いので、より血圧が下がってしまう。高血圧の人は血圧が下がってよかったと思うかもしれないが、血圧の急な変化や過度な降圧は、めまいやふらつきが起きやすくなるし、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも増える。適切な範囲内に血圧を抑えるのが重要なのです」と話す。

病状の把握に欠かせない家庭での毎日の血圧測定
◇自分で毎日測定が重要
ではどうすればいいか。まずは毎日自宅で血圧を測定して記録し、その変化を把握する。血圧の家庭測定は普及してきているが、まだまだ医療機関でのみ測定してもらっている患者は少なくない。診療を受ける前の緊張感や通院の際のストレスで血圧が上がってしまい、日常とは異なった数値が出てしまうことがある。横尾教授は「日々の血圧の変化を把握するには、家庭で毎日の測定が一番有効。最近は専用のアプリも多く出ているので、血圧手帳に毎回記載する手間もいらなくなっている」と家庭での測定の重要性を強調する。
低血圧が起きるとめまいが起こると思われているが、頭痛やふらつき、目の周囲の痛みや肩こりなどの症状も出てくるので、これらの症状があれば要注意だ。降圧薬の種類や処方量を調整してもらい、過度の血圧低下を食い止める必要がある。一般診療では診察時の測定で大きな変化がない限り、実際には血圧が下がっているにもかかわらず、処方も同じになる傾向がある。このため、患者側から毎日の測定値の変化を伝えないとなかなか処方の見直しには至らない。
◇思い付かない血圧変動は相談
しかも、現在の降圧薬の主流は数週間の時間をかけて効果を出していくタイプが主流。処方を変更してもすぐにその効果が出てこないことが多い。「変更の効果が出てくるのには2~4週間かかることが多い。ここ数年梅雨や本格的な暑さが早めに来るようになっているので、5月の梅雨の走りの時期には調整を始めないと間に合わない危険性がある。2カ月の間に理由が思い付かない血圧の変動があったり、血圧が継続して通常より20以上低下したりする場合などは、かかりつけ医に相談すること。ただし勝手に服薬を中断しない」と横尾教授はアドバイスしている。(喜多壮太郎)
(2025/06/17 05:00)
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