治療・予防

多焦点レンズで〝若返り〟
~身近な病気の白内障~

 白内障は目の中でレンズの役割を果たしている水晶体が濁る病気で、目の奥に光が届かなくなる病気だ。加齢が影響し、80代ではほとんどの人が発病するとされている。金沢医科大学の佐々木洋・主任教授(眼科学講座)は「多焦点眼内レンズの手術によって裸眼で物がはっきり見え、生活の質(QOL)は大きく向上する」とした上で、「患者も眼科医も多焦点眼内レンズについてもっと知ってほしい」と強調する。

焦点深度拡張型眼内レンズ=ジョンソン・エンド・ジョンソン提供

焦点深度拡張型眼内レンズ=ジョンソン・エンド・ジョンソン提供

 ◇前段階は老眼

 佐々木教授は「前段階の症状は老視(老眼)だ」と言う。加齢により水晶体が硬くなり、ピントが合わなくなる。40~45歳で自覚症状があり、50代後半で水晶体の調整力がほぼ失われることから、中高年以降のQOLに大きな影響を及ぼす。老眼の人は世界で2000年に14億人、30年には21億人になると推定されている。

 ◇水晶体の代わりに眼内レンズ

 白内障は近くも遠くもよく見えない。乱視が強くなり、物が二重三重にダブって見えたり、太陽の直射光が入ると、白っぽく見えたりする。暗い場所で見えなかったりする。

 白内障の治療は手術で濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する。眼内レンズには単焦点と多焦点がある。

3焦点眼内レンズ手術を受けた70歳女性の見え方=佐々木洋教授提供

3焦点眼内レンズ手術を受けた70歳女性の見え方=佐々木洋教授提供



 ◇進化した多焦点レンズ

 単焦点レンズの見え方は白内障ではない60代の人と同じ程度だが、一つの距離にピントが合うように作られている。遠くにピントを合わせると、新聞や本を読む時には老眼鏡が必要になる。その欠点を補うのが多焦点レンズで、さまざまな種類がある。2焦点では50~70センチでピントが合いにくいが、3焦点ではすべての距離に対応できる。

 70歳の女性は両眼とも3焦点レンズを入れた。手術前と比べ、30センチの距離にある時計も、50センチのスマホの画面も、遠方の店の看板もはっきり見えるようになった。

 ただ、従来の多焦点レンズはコントラスト感度や夜間の不快光視現象(ハロー現象)などの問題があり、改良を重ねてきた。佐々木教授によると、焦点深度拡張型では、50センチから遠方まで裸眼で観ることができ、コントラスト感度も良い。さらに、ハロー現象も少ないという。

 単焦点レンズは保険適用だが、多焦点レンズは自由診療だ。ただ、2020年4月以降は選定療養という制度によって多焦点レンズ代と追加検査の費用は自己負担だが、手術にかかる基本的な費用は保険適用となっている。片方の目で25万~35万円程度かかるという。

ビジョンシミュレーターで眼内レンズの見え方を示す=佐々木洋教授提供

ビジョンシミュレーターで眼内レンズの見え方を示す=佐々木洋教授提供


 ◇ビジョンシミュレーターで説明

 選択できる多焦点眼内レンズの種類は増えているのに、問題がある。佐々木教授は「多焦点レンズがあることを知らない患者が多いし、眼科医側の認知度も十分ではない」と指摘する。そこで、日常のシーンにおいてすべての距離の見え方を提示し、分かりやすく説明する方法を模索した。開発されたのがビジョンシミュレーター(VS)だ。

 車を運転する時の外部の光景と内部の機器、スーパーの食品売り場、スマートフォンの画面や雑誌の見え方などをモニターで示すことで、患者に最適なレンズの選択につなげる。金沢医科大学では、白内障の手術前にさまざまな検査を行うとともに、VSを活用し、個々の患者に最適なレンズの選択肢を提示している。

 佐々木教授は「老眼も治し、QOLを向上させる。元気になり、若返る。多焦点眼内レンズ手術はいわば『若返りの手術』だ」と言う。(鈴木豊)

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