教えて!けいゆう先生

急性アルコール中毒、搬送の実態
医師が忠告すべきこと

 私はさまざまな病院の救急外来で勤務する機会がありますが、どの病院でも、若い方が泥酔して救急搬送されるケースが非常に多く見られます。休日、祝日の前夜の当直では特に搬送数が多く、一晩で何人もの人が急性アルコール中毒で治療を受けることもあります。多くは軽症で、点滴などでの治療を行い、自力で帰れるようになるまで病院で待機することになりますが、中には症状が重く、入院が必要と判断されるケースもあります。

 以前、私が勤務中に搬送されて来た20代の男性が一晩入院し、翌朝目が覚めた時私に向かって涙を浮かべてこう言いました。「散々飲まされました。断れませんでした。迷惑かけてすみませんでした…」

 飲みすぎは本人のせいばかりではない、周囲の人間や組織内の環境、風土にも原因があるのではないか、と私は思い知らされたのです。

「アルハラは厳重に慎もう!」

「アルハラは厳重に慎もう!」

 ◇決して許されないアルハラ

 飲酒量は、個人によって適量が異なります。また同じ人でも、その日の体調によっては「適量」が変わることもあります。お酒に弱い方や体調の悪い方は、周囲の人にその旨を事前に伝えておく必要があります。

 ところが、それに対して「場がしらける」と忠告したり、「上司の酒が飲めないのか」と飲酒の無理強いをしたりする例がいまだにあるようです。これらは「アルハラ(アルコールハラスメント)」に含まれ、飲まされる本人にとっては非常に危険な行為です。アルコール等の問題を予防し、依存症者の回復を支援するNPO法人アスクは、アルハラの定義として、以下の5項目を挙げています。

・飲酒の強要
・イッキ飲ませ
・意図的な酔いつぶし
・飲めない人への配慮を欠くこと
・酔った上での迷惑行為

 大学や職場で飲酒する際には、こうした不適切な飲み方にならないよう、十分注意する必要があります。また、飲酒後に転倒し、大けがをして病院に搬送される方も多くいます。中には飲酒後にふらつき、走行中の自動車に接触したり、ホームから線路に落ちてけがをしたりするケースは後を絶ちません。

 本人も周囲の人も適量を守り、自力で安全に帰れる程度の飲酒量にとどめておく必要があります。

 ◇家族のサポートも必須

 若い方が病院に搬送され、私たち医療スタッフがご家族に病院に来ていただきたい旨をお伝えすると、「私には関係ない、本人に任せます」と言われたり、「救急車で家まで送ってあげてください」と言われたりすることがあります。

 病院への搬送は救急車の仕事ですが、治療終了後の帰宅はご自身でしていただく必要があります。入院の必要がない程度の病状であっても、一度泥酔し意識障害に陥っていた方が帰宅する際は、ご家族のサポートがあることが安全面でも望ましいと考えます。多量飲酒を防ぐことが第一ですが、万が一病院に搬送されたケースでは、ご家族の協力をお願いしたいと思います。

  ◇119番の注意点

 泥酔者の搬送例の中で、路上で倒れているところを通行人が119番した、というケースも少なからずあります。こうしたケースで、救急車が到着した際には通報者がすでにおらず、目撃情報が得られず、救命士や私たち医師が困るケースもあります。

 路上で倒れている方をほっておくには良心が咎めるが、かといってお世話をしたいわけでもない、という方が多いのかもしれません。しかし、倒れていた時の様子や、救急車が到着するまでの体の変化など、重要な情報は救急要請した人にしか分かりません。できれば、救急車到着までご本人のもとで待機していただき、救命士の方々に引き継ぐ形をとっていただけると助かります。

 ◇多量飲酒は命に関わる

 東京消防庁によると、急性アルコール中毒での救急搬送は、同庁管内だけに限っても年間1万6138件(平成28年)あります。特に多いのは12月で、平成28年は東京消防庁管内だけで月間1823人が急性アルコール中毒で搬送されています。また、生命の危険が高いと判断された重症例が46人いることも分かっています。

 年代別に見ると、男女ともに20歳代の人数が群を抜いて多く、全体の4割以上を占めています。未来ある若い方々が命を奪われたり、重篤な後遺症を負ったりすることはあってはなりません。急性アルコール中毒は、飲み方さえ気をつければ、誰もが予防できる疾患です。

 これから忘年会や新年会が続く時期に入りますが、くれぐれもこのことに注意し、組織全体として適量飲酒を心がけていただきたいと思います。(守秘義務の観点から紹介事例の内容を一部改変しております)


(参考)

「他人事ではない「急性アルコール中毒」~正しいお酒の飲み方で、楽しい年末を~」(東京消防庁)
「アルコール関連問題」(特定非営利活動法人アスク )


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