インタビュー

結婚式でもお酒を勧めない
違法薬物も安心して相談を
~依存症の専門医 松本俊彦氏~

 アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症は、本人よりも家族や周囲に暮らす人たちが大きな精神的、金銭的な負担を強いられるのが常だ。その一方で、回復に向けては、そうした家族らの支援が不可欠。周囲の人たちが取るべき対応策、避けるべき行為などについて、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部長に聞いた。

お酒は気晴らしで済む程度に

お酒は気晴らしで済む程度に

    ◇転ばぬ先のつえは逆効果

 --健康と依存症の境目は

 アルコールの場合、医学的な問題が出ても減らせない、やめられない、職業上のトラブルが出ても改められないと依存症と言っていい。ギャンブル依存症の場合は、当たるともっと当たりを求めて勝負し、大負けすると負けた分を取り返そうと次の戦いに挑む。このため、借金や家族の預金を解約したり、子どものお金を使ったり、会社の金を横領したりする。気晴らしでは済まなくなるのは、アルコール依存症と共通だ。

       精神保健福祉センターに相談を

 --家族や周囲が避けるべき行動は

 頭ごなしの説教や叱責、24時間の監視体制とか暴力は効果がない。アルコール依存症の場合は、嘔いたものをきれいに片付けたり、飲み屋のつけを家族がこっそり払ったり。ギャンブル依存症の場合は、借金を肩代わりしたり、チャラにしたりするのはやめてほしい。本人が依存を続ける状況を維持する格好になってしまう。

第85回日本ダービー=2018年05月27日、東京競馬場[日本中央競馬会(JRA)提供]

第85回日本ダービー=2018年05月27日、東京競馬場[日本中央競馬会(JRA)提供]

 転ばぬ先のつえとか、先回りした支援は避けなくてはいけない。行動の結果を現実に本人に分かるようにする、本人に気づかせることが大切だ。

 --取るべき対応は

 本人は何も気づけない状態で、家族が「あなたには問題がある」と言っても、「なぜ文句ばかり言うんだ」となってしまう。病院に相談すると「本人を連れてきて」と言われるが、本人は行きはしない。まずは、都道府県や政令指定都市に少なくとも1カ所はある精神保健福祉センターに相談してほしい。1回の相談では解決しないが、継続的に相談する中で、本人に対する関わり方のこつを教えてもらえる。

       ◇守秘義務が優先

 --薬物依存を相談すると警察に通報されないか

インタビューに応える松本俊彦氏

インタビューに応える松本俊彦氏

 精神保健福祉センターは秘密を守ってくれる。薬物の問題で困っている人は、相談すると警察に通報されると思うかもしれないが、ちゃんと守秘義務が優先される。

 医療機関は守秘義務が定められている。命が危ない時など治療上の理由がある場合は犯罪行為であっても守秘義務を守ることが許される。公務員は犯罪告発義務があるが、治療上望ましい場合には公務員の医療者も守秘義務を優先することが許されている。

 相談機関の場合も同様に犯罪告発義務があるが、相談支援を遂行する上で告発をしないことは医療者と同様に全く可能。目の前で薬物を持っていたり、売られたりした場合は難しいが、口頭で「使っちゃいました」とか「家で(家族が)使っているみたいです」といった場合には、全部守秘義務で対応できる。安心して相談してほしい。

        ◇称賛、尊敬の気持ちを

 --回復に向けた自助グループの役割は

薬物依存症の自助グループ・回復支援施設「川崎ダルク」

薬物依存症の自助グループ・回復支援施設「川崎ダルク」

 意思や根性でやめるのに成功している人もいるが、それはやせ我慢のような形になってしまう。一番成功率が高い、長期にわたってやめた状態の実績があるのは自助グループに通っている場合。同じ問題を抱えた当事者が協力し合いながらミーティングを開くことで、酒や薬物を断ち続ける、ギャンブルをしない日々を継続できる。

 --依存症から回復した人への接し方は

 回復のためにがんばっている人は、称賛に値することを理解し、尊敬の気持ちを持ってほしい。依存症の人がやめ続けるには、大変な努力が必要。アルコールを10年間やめている方が、「たまにはいいんじゃない。一杯だけどう」「結婚式なんだから…」と勧められて一杯飲むと元の状態に戻ってしまう。絶対にやめてほしい。薬物、ギャンブルといっしょにお酒をやめている人にも勧めてはいけない。お酒が入るとギャンブルをやりたくなる人がいることにも注意が必要だ。(解説委員・舟橋良治)

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