女性医師のキャリア

病院では治せなかった原因不明の不調
~脳外科医が自ら探し当てた病気の正体~ 女性医師のキャリア

 せきの原因は普段の食べ物だった

 統合医療を行っている大阪のクリニックを受診して症状を伝えたところ、「遅延型食物アレルギー検査」を勧められました。食物アレルギーには「即効型」と「遅延型」があり、食べた直後にじんましんや呼吸困難の症状が出る「即効型食物アレルギー」が一般的に知られています。遅延型食物アレルギーは症状の出現が数時間から数週間後と遅く、頭痛めまい、倦怠(けんたい)感、じんましん、情緒不安定、抑うつ、睡眠障害便秘下痢アトピー性皮膚炎ぜんそくアレルギー性鼻炎など症状が多岐にわたるため、食物によるアレルギー症状だと気付きにくいのが特徴です。

 私の検査結果では、小麦、ジャガイモ、タイをはじめ、日常的に食べている物を中心にかなりの品目にアレルギー反応が出ていました。この結果を踏まえ、まずは危険領域に入っていた小麦を徹底的に排除し、反応が出た他の食べ物も減らすように意識してみました。小麦粉のパン、うどん、パスタは避け、大好きなビールも我慢しました。そうしているうちに症状が少しずつ改善に向かい、なんと半年後にはすっかりせきが治まり、職場復帰できるところまで回復したのです。

 腸の疾病「リーキーガット症候群」に起因していたことも明らかになりました。健康な腸には腸内細菌が体内へ入るのを防ぐため、隣り合う細胞同士を密着させるための超粘膜細胞「タイトジャンクション」があります。それが何らかの原因で外れ、細胞と細胞の間に隙間ができていたのです。タンパク質は本来、しっかり消化されてアミノ酸になってから血中に入ります。ところが現代人の食生活では、タイトジャンクションを破壊するものが多く、未消化のタンパク質が腸から漏れ出て血中に混ざり、体調不良の原因となっていると考えられています。同タンパク質で悪さをする代表が小麦に含まれる「グルテン」なのです。

こひつじクリニックにて

こひつじクリニックにて

 ◇分子栄養学を生かした医療の可能性

 現在、私はクリニックに勤務しながら、患者さんに分子栄養学の知識を生かしたアドバイスを行っています。普段の食生活を変えるだけで症状が改善する場合が多く、患者さんには大変興味を持っていただいています。

 例えば、謎のじんましんが出たという訪問診療先の患者さん。菓子パンばかり食べているそうなので、それをやめるところから始めてもらいました。パンは米粉パンに、バターはオリーブオイルに変えるなど、小麦と卵と乳製品をできる限り排除するように指導したところ、症状が治まってきました。本来は検査を受けた方が確実なのですが、遅延型食物アレルギー検査は自費診療のため高額です。ちゅうちょする方も多いので、診療で原因が分からない症状がある場合は三大アレルゲンである「卵白」「乳製品」「小麦粉」をやめてみるところから始めるのがいいと思います。

 別のケースでは、60歳の女性の患者さんが会社の健診で血圧が高いと分かり、降圧剤を処方してもらうように言われて来院しました。けれども「薬は飲みたくない」と言うので、マグネシウムを取るように伝えました。マグネシウムの含有量が高い海藻類を多めにし、サプリメントも活用します。ただ、許容量を超える摂取は下痢の原因になるため、風呂に塩化マグネシウムの入浴剤を入れ、風呂上がりに酸化マグネシウムの軟こうを塗るように勧めました。これを1年間続けたところ、血圧は正常範囲内に下がりました。さらに、マグネシウム風呂に入った家族はアトピーが改善したとの報告がありました。

 最近では、新型コロナウイルスの患者さんの後遺症対策として亜鉛を取るように指導しています。抗がん剤治療に高濃度ビタミンCを併用すると副作用が抑えられ、効果が上がるとも言われていますので検証しているところです。

 ◇「自ら治そうとする力」を信じて

 科学的な西洋医学に自然治癒力を高める代替・伝統医療を組み合わせた「統合医療」を取り入れる施設が増えつつあります。厚生労働省も推奨し、大学病院でも取り組みが始まっています。現代の情報社会では、情報を収集しやすい一方で、あふれ返った情報に振り回されることも多々あると思います。病気を治すためには基本的な医学の知識を身に付けて、情報を使いこなすぐらいのスタンスが必要です。医学は多種多様であり、アプローチの方法はさまざまです。従来の医療の枠を超え、統合医療に目を向けてみることで、「自ら治そうとする力」が呼び起こされるかもしれません。(了)

聞き手・文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

中牟田佳奈(なかむた・かな)
 1994年3月兵庫医科大学卒業。大阪大学病院脳神経外科、国立大阪病院、泉州救命救急センターでの研修を経て、大阪市内の市中病院で脳神経外科医として勤務し、2013年3月に退職。2017年はり師きゅう師免許取得。現在、こひつじクリニックに勤務しながら、鍼灸や分子栄養学の知識を生かせるクリニックの開業準備中。

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