不妊症の原因と検査 家庭の医学

 排卵、受精、着床という過程を経て妊娠は成立します。この過程の一部が障害を受けると妊娠しないことになります。不妊症の原因は多岐にわたるので、この妊娠成立の過程を前提に不妊症の原因の検査・治療をおこないます。検査によっては、月経周期の適切な時期におこなう必要があります。

■女性側の原因と検査
 女性の不妊症の原因には、排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子、免疫因子などがあります。このうち、排卵因子と卵管因子の頻度が高いといわれており、男性側の不妊原因、すなわち男性因子とあわせて、不妊症のおもな原因となっています。

□排卵因子
 卵巣から卵子が放出されることを排卵といい、多くの場合、およそ1カ月に1回起こります。月経が不規則の場合、排卵がきちんと起こっていない可能性があります。排卵が起こっているかどうかを調べる方法として、基礎体温をつける方法があります。低温期・高温期がきちんと周期的にある場合には、正常に排卵が起こっている可能性が高いといえます。
 排卵に問題があると疑われる場合には、月経中の採血でホルモン検査をおこないます。また、排卵期前後に超音波(エコー)検査をおこない、排卵に伴う卵巣や子宮の変化がきちんと起こっているか調べます。また最近では、卵巣機能を評価する検査法の一つとして、血液中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)の検査がおこなわれるようになっています。
 排卵障害はさまざまな原因で起こります。たとえば、プロラクチンという乳汁分泌にかかわるホルモンが過剰に分泌する高プロラクチン血症、月経不順や無月経の原因になる多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群によるもの、加齢や早発卵巣不全(40歳前に閉経した状態)などの卵巣機能の極端な低下によるもの、短期間に体重が減った場合や精神的ストレスによるものなどがあげられます。

□卵管因子
 卵管が炎症などのために中がつまったり、周囲の組織と癒着(ゆちゃく)を起こしたりすると不妊症の原因となります。卵管炎を起こすおもな原因としてクラミジア感染などの性感染症があげられます。子宮頸(けい)部(子宮の入り口)の分泌液や血液を用いて検査します。また、子宮内膜症がある場合も卵管の周囲に強い癒着が生じ、妊娠の障害となることがあります。虫垂炎などの骨盤内手術も、卵管周囲癒着の原因になることがあります。
 卵管の検査として、造影剤を子宮の中に注入してX線写真を撮る子宮卵管造影検査があります。この検査は月経開始から排卵までの間におこないます。

□子宮因子
 子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内腔の癒着など、子宮内腔の異常をきたす場合に不妊症の原因となります。子宮筋腫があって、月経量が多く血液検査で貧血といわれている場合には、子宮の内側に突出するタイプの子宮筋腫が疑われます。この場合には、受精卵が子宮内膜に着床したり、精子が卵子に到達するのがさまたげられたりして不妊になると考えられています。先天的に子宮の形態に異常がある場合には、不妊症の原因というよりは反復する流産の原因になるといわれています。
 これらに対しては超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像法)検査、子宮にファイバースコープを入れて中の状態を確認する子宮鏡検査をおこないます。

□頸管因子
 排卵の時期の子宮頸部からの分泌液(頸管粘液)は、腟内の精子が子宮へ入るのを助ける役割をもっています。子宮頸部の手術や炎症、先天的な子宮の形態異常などにより頸管粘液量が少なくなると、精子が子宮内へ進入しにくくなり、妊娠しにくくなります。
 排卵直前の時期に頸管粘液を採取して量や性状を確認する頸管粘液検査や、性交渉後数時間以内に頸管粘液を少量採取し、顕微鏡で頸管粘液の中に運動している精子がいることを確認する性交後試験(フーナーテスト)をおこなって調べます。

□免疫因子
 なんらかの免疫異常によって精子を攻撃する因子(抗精子抗体)、特に精子不動化抗体(精子の運動をとめてしまう抗体)が女性のからだの中にできると、精子が頸管粘液内や子宮~卵管内を通過できなくなったり、精子と卵子の結合がさまたげられたりして不妊症となることがあります(免疫性不妊)。

■男性側の原因と検査
 不妊に悩むカップルの約半数に男性側の因子が存在するといわれています。男性側の不妊症の原因は、射精がうまくいかない場合(性機能障害)と、射精精液内の精子の数や運動している精子の割合(運動率)がわるくなっている場合(精液性状低下)に分けられます。
 おもな検査は精液検査です。精液を顕微鏡で観察し、精子の濃度や運動している精子の割合(運動率)、異常な形状の精子の割合(奇形率)などを調べます。精液性状低下の原因として、精巣(睾丸〈こうがん〉)の精子をつくる機能が低下している場合、精巣上体(副睾丸〈ふくこうがん〉:精巣の上部にある組織)の異常により精子の成熟が障害を受けている場合、精管(精子の通り道)が閉塞している場合などがあげられます。
 精子は一度放出されるともとの数までふえるのに数日かかるため、精液検査の前には2~7日の禁欲期間(射精しない期間)が必要です。精液の性状は日によって変動するので、わるい結果の場合にも、再度検査をして精液の性状を確認します。精液検査で異常をみとめた場合には、泌尿器科医師による診察が必要になることがあります。

□性機能障害
 有効な勃起が起こらず性交渉がうまくいかない勃起障害(ED)や、性行為はできても腟内に精液がうまく入らない腟内射精障害は不妊症の原因となります。動脈硬化糖尿病も性機能障害の原因になります。

□精液性状低下
 精子は精巣のなかでつくられ、精巣上体という細い管を通過する間に運動能力を獲得し受精が可能な完成した精子になります。精巣での精子の形成や精巣上体での運動能獲得の過程に異常があると、精子の数が少なくなったり動きがわるくなったり奇形率が高くなったりして、受精する能力が低下します。この異常を造精機能障害と呼びます。造精機能障害の原因の一つが精索静脈瘤(りゅう)です。
 また、精子数が極端に少なかったり運動率が極端に低かったりする場合もあり、造精機能障害のほかに、視床下部-下垂体ホルモン分泌の低下による低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症、停留精巣術後や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)性精巣炎も原因になります。
 射精精液中に精子がまったくみられない状態を無精子症といいますが、この無精子症には、精巣内で精子がつくられているのに精液中に精子がいない閉塞性無精子症と、精子の通路である精巣上体から精管に閉塞がない非閉塞性無精子症があります。閉塞性無精子症が起こる疾患としては、先天性両側精管欠損症、鼠径ヘルニア手術の既往などがあります。非閉塞性無精子症の大半は原因不明ですが、クラインフェルター症候群やY染色体微小欠失などの性染色体異常によって起こることがわかってきています。

■原因不明不妊症について
 不妊症のカップルのなかには、女性・男性ともにすべての検査で問題なく、はっきりした原因を特定できない場合があります。これを原因不明不妊症あるいは機能性不妊症といいます。これは、ほんとうは不妊症の原因はあるけれどもそれを特定できない場合と、ほんとうに問題がない場合と両方を含むことになりますが、正確に推定・評価することは困難です。基本的にはできるだけ妊娠の可能性が高くなるよう適切に治療を進めていきます。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 教授〔産婦人科学〕 廣田 泰)
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