急性腹膜炎〔きゅうせいふくまくえん〕 家庭の医学

 腹膜は、肝臓・胃・小腸・大腸など内臓の表面をおおっている膜で、ひろげるとたたみ1畳分ほどの面積になります。

 腹膜炎とは、腹膜に何らかの原因で炎症が起こった状態のことで、多くは細菌感染によって起こる急性腹膜炎です。短時日のうちに急速に悪化するのが特徴で、腹膜全体にひろがる急性汎発(はんぱつ)性腹膜炎(びまん性腹膜炎)と、腹膜の一部にとどまる急性限局性腹膜炎に分けられます。最初は限局性腹膜炎でも、炎症が進み、隔壁がやぶれると、炎症がひろがり汎発性腹膜炎になります。

■急性汎発性腹膜炎
 腹膜全体に炎症がひろがると、腹膜から毒素が吸収され、循環不全、呼吸不全などが起こり、生命にかかわる重篤な状態となります。

[原因]
 胃腸の内容物や細菌が腹腔内に流れ出ることにより急性腹膜炎が起こります。原因となる疾患には、虫垂炎(盲腸炎)、大腸憩室(けいしつ)炎、胆嚢(たんのう)炎、膵(すい)炎、肝膿瘍(のうよう)破裂、胃・十二指腸潰瘍の穿孔(せんこう)、胃がん大腸がんの穿孔などがあります。

[症状]
 急性腹膜炎では、腹膜炎の原因となる疾患によってその症状は若干異なりますが、一般に腹痛、腹部膨満感、発熱、頻脈、頻呼吸、嘔吐(おうと)などが起こります。症状が重くなると激しい腹痛に加え、腹部全体が板のようにかたくなるので、すぐに医師の診察を受けなければなりません。
 虫垂炎では、限局性腹膜炎のうちに手術がおこなわれないと、やぶれてうみが流れ出し、強烈な痛みとともにおなかが板のようにかたくなります(汎発性腹膜炎)。時間がたつにつれて、腹がはり、嘔吐が起こり、どんどん全身状態がわるくなるので緊急手術が必要です。
 胃・十二指腸の穿孔では、突然急激な腹痛が起こることが特徴的です。炎症がひろがる前に診断できれば、あいた孔(あな)をふさぐ手術で終了します。孔があいてから24時間以上たつと炎症が腹部全体に及んでいることが多く(汎発性腹膜炎)、胃切除術や腹腔洗浄、術後の集中治療室管理などが必要となることがあります。
 胆嚢の穿孔は胆石症や胆嚢炎が原因で、細菌を含んだ胆汁が腹腔内に流れ出し、腹膜全体に炎症がひろがります。激しい上腹部の痛みではじまり、全身状態もほかの原因による汎発性腹膜炎より重篤で、手術後も治療が長引き、生命が失われることもあります。
 急性膵炎が重くなり、膵臓壊死になると感染を併発し、重い腹膜炎となります。激しい上腹部の痛みとともに吐き気、嘔吐が出現し、意識障害、血圧低下などが起こります。非常に危険な状態です。
 大腸の穿孔では、腸内細菌が便とともに腹腔内に流れ出します。高熱とともに腹部全体が板のようにかたくなり、全身状態も急速に悪化します。生命を失う危険性が高く、多くの場合、人工肛門をつくらなければなりません。

[治療]
 いずれの場合もなるべく早く手術を受けることが重要です。手術では原因を取り除き、腹腔内を洗ってからドレーン(残ったうみを体外に導く管)を腹腔(ふくくう)に入れます。
 呼吸、循環、栄養の状態がわるいので、術後しばらくは安静、絶食となることが多く、しばしば人工呼吸器による管理も必要となります。

■急性限局性腹膜炎、腹腔内膿瘍
 急性限局性腹膜炎は、急性汎発性腹膜炎と同様の原因で起こりますが、周囲の臓器の癒着(ゆちゃく)によって炎症が腹腔内の一部にとどまったものです。
 軽症であれば、安静、絶食、抗菌薬投与で治療しますが、重症なものや、いつまでも膿瘍が小さくならないときは、穿刺(せんし)や手術でうみを取り除くことが必要となります。

(執筆・監修:医療法人社団哺育会 桜ヶ丘中央病院 外科部長 榎本 雅之)
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