痔瘻〔じろう〕 家庭の医学

 痔瘻は、肛門管内からの肛門周囲膿瘍に引き続き起こることが多く、その感染方向によっていろいろなタイプの痔瘻があります。肛門の機能に大きくかかわる肛門括約筋(かつやくきん)を貫いて瘻管を形成している場合も少なくありません。その瘻管のパターンによって深部痔瘻、複雑痔瘻、単純痔瘻などの診断となります。排膿などの症状のある複雑痔瘻を長年(10年以上)放置すると、ごくまれではありますが痔瘻がんという悪性疾患に変化する場合もあります。

[症状]
 ふだんから肛門周囲の固定した一部にしこりが触れ、その部分がときどきはれて痛くなったあと、少量の膿(黄色から赤色)が出て痛みが軽減するというパターンをくり返します。くり返す間隔は一定ではありません。放置することにより、肛門が少しずつ狭くなっていきます。また、別な部位に同様な痔瘻が新たに発生することもまれではありません。

[治療]
 肛門周囲膿瘍の切開排膿のみで治癒する場合もありますが、基本的に排膿をくり返す痔瘻は治療の対象になり、治療は手術療法になります。痔瘻の種類や治療にあたる医療施設によって、手術方法や治療期間は異なるのが現状です。痔瘻を完治させ、かつ、肛門機能に影響を残さないことが大事です。

■手術方法
1.開放手術
 痔瘻の瘻管を入り口から出口まで全部開いて傷をととのえ、徐々に傷が閉じるのをまつ方法。比較的浅い単純な痔瘻に対して適応し、再発の少ない術式です。深い複雑な痔瘻に対しては適応を慎重にします。
2.シートン法
 瘻管におもにゴム紐を通して瘻管全体を何回か段階を追って緊縛していく方法で、開放術よりも肛門括約筋へのダメージは少ないものの治療期間が長くなる傾向があります。また、緊縛するごとに疼痛が生じます。
3.肛門括約筋温存術
 括約筋を可能なかぎり温存して低侵襲に痔瘻を治療する方法です。肛門変形や機能の低下は軽いものの、再発が他の方法より多い傾向があります。
4.肛門上皮を温存する手術
 近年の低侵襲手術として肛門上皮に手術侵襲を加えない方法がいくつか提唱されてきています。手術後の排便時痛がかなり軽減される利点があります。
 いずれの手術方法にしても、治療後も下痢に気をつけて、生活習慣の改善が必要です。

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