保健薬(一般薬) 家庭の医学

 保健薬ということばは、正式の医薬品の名称には見当たりませんが、健康の維持、病気の予防、体力増進という意味において、なにか有用らしいと思われる薬を疾病の治療薬に対して俗称として保健薬といわれています。保健薬といわれるものには栄養薬、ビタミン薬、肝臓薬、消化薬、強壮薬、強精薬のたぐいからホルモン剤、老化動脈硬化予防薬に至るまで幅広いものがあります。それらは、それぞれに意味のある薬であり、保健上有用であるものも少なくありません。
 しかし、一般的な心構えとして、まず生活の乱れを是正することが優先であり、このような保健薬で、それを補うことができるという考えかたは、根本的に誤っているといわねばなりません。
 たとえば、ビタミンB1薬は、日本での脚気(かっけ)をほとんどなくしましたし、発熱、妊娠、飲酒などでビタミン消費が高まったときの欠乏を補うのは確かでしょう。ただ、ビタミン薬さえのんでいれば酒の害から免れるということはありません。
 肝臓薬についても同じです。飲酒をやめるなり、節酒するなり、肥満を避けるほうがさきであることは、考えればすぐわかることです。胃腸が弱いからといって、健胃消化薬をのみ、食事はでたらめ、というのもおかしな話です。
 年をとって、精力が減退したからといって、いたずらに強精薬やホルモン剤を服用するのも、一時的な効果にすぎず、常用することによって、どんな結果になるかは、おそるべきものがあります。
 日本人は薬好きといわれ、たしかにこのような保健薬が普及していますが、どんな場合に、どの薬が、どの程度必要か、十分に考えてから、使用されるべきです。テレビ、新聞、雑誌その他では、あきらかな誇大広告は、最近規制されてきていますが、使用上の注意の記載が正しくても、用いる側には必ずしも適していないこともあります。
 いずれにしても、複数の病気をもつ高齢者などは、薬の種類が多くなりやすいので、保健薬を使う際にも、医師によく相談して服用の是非を考えてください。
 現在、とるべき方向としては、まず信頼する医師や薬剤師に相談して、できるだけ服用する薬を少なくするのがいちばんよいと思います。

(執筆・監修:東京慈恵会医科大学 教授〔臨床薬理学〕 志賀 剛)