高齢期の栄養と食事 家庭の医学

解説
 年をとると、身体活動のおとろえは、誰でも経験しなければならないことです。食べる機能に関していえば、歯の欠損が大きな問題です。歯を失う原因は、歯周病、う歯(むし歯)がほとんどで、いずれもしっかりとした口腔ケアで予防ができます。食後の歯磨き、就寝前の歯磨きに加え、正しい磨きかたも大事です。歯科医師・歯科衛生士さんから正しい歯の磨きかたをならってください。
 1989(平成元)年に厚生省(当時)と日本歯科医師会が共同で、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう(8020運動:ハチマルニイマル運動)」で正しい口腔ケアの普及をはかり、運動開始当初の達成率は数%であったものが、2007年には国民の25%以上がこの目標を達成できるまでになりました。しかし、やむをえず自分の歯を失った人は入れ歯(義歯)によってかむ力を補うことになります。
 最近では、インプラント術で義歯を必要としなくなりつつありますが、インプラントは誰でもできるわけでもありませんし、インプラントでも、まったく自然歯と同じとはいきません。入れ歯はかたい食品が食べにくい、味がわかりにくいなど、自然の歯の代行を100%はしてくれません。
 さらに、食べ物を飲み込む力も弱くなります。これはむせるという現象であらわれてきます。食物を飲み込む力を保つことは、窒息死や誤嚥(ごえん)性肺炎の予防に重要となります。高齢期になって嚥下(えんげ)力の低下を防ごうと、最近ではさきの8020運動に加え、「オーラルフレイル」の予防運動の取り組みが始まっています。嚥下体操など、口腔周辺の筋力をつけることが予防として効果があるとされています。
 また、味覚もおとろえ、味がわかりにくくなります。高齢の人がつくった料理の味が、濃いことがありますが、これはその人の嗜好(しこう)ではなく味覚域の低下による場合があります。
 視力の低下、手指の機能低下は食べ物を識別したり、つかんだりする機能の低下につながり、食べる速度がおそくなります。消化能力も低下してきます。その結果、あぶらっこいものを避ける、食欲が落ちるなどの現象となり、低栄養の原因ともなります。
 食欲低下には、うつ病が隠れている場合もあります。誰でもがむかえる高齢期を、年齢に即した健康度で過ごすためには、こころのもちかたが、重要であることは、最近注目を集めている抗加齢医学でも証明されつつあります。それと同時に、食べることは健康な生活の基本の一つです。

(執筆・監修:金沢学院大学 栄養学部栄養学科 特任教授 宮本 佳代子)