インタビュー

睡眠障害、伊藤洋医師に聞く(下)=薬に頼らず指導で

 睡眠障害は仕事など社会的生活に影響を及ぼすため、軽視しない方がよい。日本では現在、睡眠薬による治療が中心だが、これはあくまで対処療法にすぎない。そこで海外での治療法も踏まえ、新たな基準を作ろうという取り組みが専門家の間で始まった。

 薬物治療は最小限に

 ―不眠症の患者や不眠症予備軍の人に対する治療法としては、睡眠薬が処方されるのでしょうか。

 伊藤 現在、日本では睡眠薬での薬物治療が中心です。睡眠薬というと、かつては抗不安薬としても使われるベンソジアゼピン系(デパス、ハルシオンなど)が主に使われていましたが、最近では、副作用を抑えて安全に使える非ベンソジアゼピン系(マイスリー、ルネスタなど)の睡眠薬が主流となりつつあります。2010年にメラトニン受容体作動系睡眠薬「ロゼレム」、2014年にオレキシン受容体拮抗薬「ベムソムラ」と、作用メカニズムが違う薬が立て続けに承認されました。依存性と副作用が少ないとされています。

 ただ、たとえ副作用が少ないとはいえ、安易に服用したり、長期的に使用したりするものではありません。日本は、国民皆保険制度により保険診療で最新の睡眠薬も金銭的に大きな負担がなく処方してもらえるため、睡眠薬の使用量は諸外国に比べて突出しています。それはそれで大変恵まれているのですが、高用量や多剤併用で過剰に処方され、副作用や依存に陥ったりするケースも見られます。不眠症薬物治療は対症療法であり、長期間、継続する治療ではありません。薬の処方は最小限にとどめて、慎重に行われるべきなのですが、安易に薬を処方する医師も多いのが現状です。このままでは患者のリスクも高まり、保険診療も破綻してしまいます。

 厚生労働省と日本睡眠学会から、患者のための睡眠薬の適正使用のためのガイドブックを発行し、過剰な服用や依存などのリスクについて呼び掛けています。

 ◇海外の主流は睡眠衛生指導

 ―海外では睡眠薬以外の治療が積極的に行われているのですか。

 伊藤 米国をはじめとする先進諸国では、不眠症の治療は薬物治療を始める前に「睡眠衛生指導」が行われるのがスタンダードとなっています。まずは専門家が睡眠に対する正しい知識を伝え、適切な睡眠が得られるためのカウンセリングが行われます。不眠の根本的な原因を突き止めて指導し、生活の改善を図ります。

 具体的には、日中に運動をして夜の寝付きを良くする。昼寝は30分程度にとどめる。寝室を快適な温度に保つ。規則正しい食生活をして、同じ時刻に起床する。夜中のトイレを防ぐため、夜に水分を取り過ぎない。就寝前のカフェインは禁止。眠るための就寝前のお酒やたばこは禁止。寝床で考え事はしないなどです。知識として頭に入れておくだけでも、意識するようになり、改善に向かいます。自分の睡眠の状態を把握するために睡眠日誌をつけたり、認知行動療法と併用したりすることもあります。

 ―寝室の快適な温度は何度くらいですか。

 伊藤 冬は16~19度、夏は26度以下です。室内の湿度は季節を問わず50%前後。布団の中は、32~34度くらいが理想的です。

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