インタビュー

緩和ケア、城谷典保医師に聞く(下)=痛み抱える人を地域で守る

 「緩和ケア」は病気による痛みや精神的な不安を取り除き、治癒の難しい疾患でも「生活の質」(QOL)を改善し維持するための医療。がんの終末期医療として病院内の閉鎖的な空間で行われていた治療を、今はがん以外の病気や早期に発見された疾患も対象に、地域医療や在宅医療の現場にも適用する試みが始まっている。21世紀型の緩和医療の形を提案している日本在宅医療学会理事長の城谷典保医師に、緩和ケアの新しい取り組みについて聞いた。

―緩和ケアというと、末期がんの人のために「ホスピス病棟で行う痛みの治療」と思っていたのですが、そうではないのですか。
 城谷 緩和ケアは1960年代前半、死にゆく人の人権を守る運動として展開し、1980年には進行がんの患者に対するホスピスケアとして体系化され、全世界に広がりました。しかし、21世紀に入ってからは世界的に緩和ケアの概念が大きく変わったのです。

 最近の日本の死因統計では、がんを含めた慢性疾患によると思われる死亡が全体の8割近くを占めています。世界保健機関(WHO)は、慢性疾患の約半数は予後の推測が可能で緩和ケアの対象としています。「緩和ケアは場所、疾患、年齢を問わず、すべての人に対して行うもの」であり、例えばオーストラリアでは、国家戦略として高齢者施設に入っている認知症患者に対して緩和ケアを行っています。緩和ケアはがんに限定するものでも終末期に限定するものでもないというのが世界的な潮流であり、先進国の中で「緩和ケア=がんの疼痛(とうつう)治療」という先入観を持っているのは、日本だけなのです。病院内のホスピス病棟で末期がんの患者を対象にしている施設完結型の閉鎖的な日本の緩和ケアは、大きな転換を迫られています。


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