一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏

(第21回) 「日常戻って初めて成功」 =健康寿命への思い強く

 手術後、胸にたまった水を抜くことはあったが、陛下は回復具合に応じ歩行訓練や柔軟体操など通常のリハビリメニューを順調にこなされた。わずか15日後の3月4日に退院。陛下の治療に携わったスタッフ全員が集まり、看護師長が花束を贈呈した。

 退院時の陛下の様子について、天野氏は「スタッフ一人ひとりにお礼を述べられている姿を見て本当にすごいなと思いました。入院中にどんなに厳しく苦しくても、自分のことは二の次。公務のことを気に掛けていらした」と振り返る。「自分はまだまだだなと。もっと自分を追い込んで、目の前に上がってきた事象はすべて公平に解決していこうと思うようになりました」と話す。

花束を手に、皇后さまと東大病院を退院される天皇陛下。右はあいさつする執刀医の天野氏(東京都文京区)

 78歳で心臓手術を受け5年以上たった今も各地を訪問する陛下の姿は、高齢でも手術で元気になれるという前向きなメッセージを広く国民に与えた。「天皇陛下はお気持ちが強かったから乗り切れたと思うし、術後のリハビリを皇后陛下が献身的にサポートされていたことも回復を後押ししたと思います」

 天野氏は「治療する側だけじゃなくて、治療を受ける人の情熱というか前向きな気持ちが大事なんだなと改めて思い知らされました。80歳だから手術しないというのは、周りが決めている部分もある。本人は手術でも何でも受けて元気になりたいと思っている人もいるわけですよ」と語る。陛下の執刀医となったことで、高齢者、超高齢者の手術をより安全に確実に行い、健康寿命を長くすることが自分のライフワークだという思いを強くしている。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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