エストロゲン受容体(ER)陽性のがんには抗エストロゲン薬を用いることで腫瘍退縮が期待できるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)などER陰性のがんはエストロゲンの影響を受けないため、抗エストロゲン薬は不適応とされてきた。北海道大学大学院の梶原ナビール氏、同大学遺伝子病制御研究所教授の清野研一郎氏らは、ER陰性がんにおいてもエストロゲンが腫瘍成長を促進していることを発見し、Br J Cancer2023年8月オンライン)で報告した。

エストロゲンによる免疫抑制の標的は免疫細胞

 腫瘍微小環境に免疫細胞である細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が多く存在するかどうかは予後と関連する。また、エストロゲンが免疫細胞のサイトカイン産生や活性化レベルを調節すること、試験管内で免疫反応を直接抑制すること、エストロゲンが増加する妊娠中にCTLが減少すること、免疫チェックポイント阻害薬が女性よりも男性で奏効する例が多いことなどから、免疫細胞がエストロゲンによる免疫抑制の標的であると想定はされるものの、根拠は十分に示されていなかった。

 卵巣を切除したマウスと卵巣を温存したマウスにER陰性がん細胞株である4 T1(TNBCモデル)やCT26(結腸がんモデル)を皮下注射した結果、卵巣を切除したマウスでは腫瘍の成長が抑制された。その後マウスにエストロゲンを単独投与したところ、腫瘍の増大が見られた。また、Tリンパ球欠損マウスを用いた同様の実験ではこれらの結果が見られなかったことから、エストロゲンがTリンパ球に作用してER陰性がんの成長を促進している可能性が示唆された。

免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強

 ER陰性がん細胞株を接種したマウスに抗エストロゲン薬を投与すると、腫瘍増殖が抑制された。この腫瘍内の免疫細胞を解析したところ、CTLが大幅に増加していた。さらにヒトの末梢血中およびマウスの脾臓から採取したCTLに、試験管の中でエストロゲンを添加しさらに抗エストロゲン薬を追加したところ、エストロゲンがCTLの増加を直接抑制していることが示された。この機序として、エストロゲンがCTLにおけるインターロイキン2産生を減少させ、これによって自己分泌活性化経路が抑制されている可能性が考えられる。

 また、ER陰性がん細胞株を接種したマウスに抗エストロゲン薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を行ったところ、劇的な抗腫瘍効果が誘導された。

 今回の結果について梶原氏らは「抗エストロゲン薬を腫瘍微小環境改善薬として免疫療法や既存の化学療法に追加することで抗腫瘍効果を増強できる可能性がある」と展望し、全がん種を対象としたドラッグリポジショニング戦略の確立に期待を寄せる。

服部美咲