世界に類を見ないスピードで高齢化が進む中、誰もがなり得る認知症への対策は喫緊の課題だ。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、患者が約700万人に達すると推計される。政府は認知症対策を「国家プロジェクト」に位置付け、「共生」と「予防」を柱とした取り組みを始めている。
 65歳以上が総人口に占める割合は昨年、29.0%、75歳以上は15.5%に上った。約50年後の70年には人口減により65歳以上の高齢化率は38.7%と推計されている。
 「高齢化に伴う認知症の人の増加への取り組みは世界共通の課題」。政府が19年に策定した認知症施策推進大綱は、序文で対策の重要性をこう指摘した。中でも日本は「世界で最も速いスピードで高齢化が進んできた」と、危機感をにじませた。
 大綱は「共生」を柱に、自動運転の実用化に加え、小売業や金融機関などを対象とした認知症サポーターを400万人に増やす目標を掲げた。今年6月には、国と自治体が関連施策に取り組むと定めた認知症基本法が成立。「共生社会」の実現を掲げ、正しい理解の普及やバリアフリー推進などが盛り込まれた。
 一方、大綱がもう一つの柱に据えた「予防」では、「70代での発症を10年間で1歳遅らせる」とした。発症を遅らせたり、症状の進行を緩和したりする予防には、運動不足の改善、社会参加による孤立の解消が資するとされているが、科学的根拠が不十分で、予防法の確立に至っていない。
 岸田文雄首相は6月、認知症対策について重点的に取り組む意向を表明。9月には患者や有識者らが参加する新たな会議を立ち上げ、予防や早期診断に関する議論を深めたい考えだ。 (C)時事通信社