韓国・Yonsei University College of MedicineのNamki Hong氏らは、同国の国民健康保険請求データベースを用いて原発性アルドステロン症(PA)患者における認知症の発症リスクを検討。その結果、PA患者は本態性高血圧(EH)患者と比べて認知症のリスクが高く、特にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)投与例における血管性認知症のリスクが高かったとAlzheimers Res Ther2023; 15: 136)に発表した。

副腎摘出後/MRA投与下の患者を本態性高血圧患者と比較

 高血圧認知症の確立された危険因子だが、二次性高血圧の最もよく見られる原因疾患であるPAと認知症との関連を検討した研究は極めて少ない。

 Hong氏らは、韓国の国民健康保険請求データベースから、認知症の診断歴がなく2003~17年に40歳以上でPAと診断された患者とEH患者を抽出。年齢、性、診断年でマッチングしたPA患者群3,687例〔副腎摘出術(ADX)施行群1,339例、MRA投与群2,348例〕とEH患者群1万4,741例を1:4の割合で解析に組み入れた(平均年齢56.3歳、男性47.6%)。

 主要評価項目は、認知症の診断コード(アルツハイマー病、血管性認知症その他の認知症)と1つ以上の抗認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)の処方記録の組み合わせにより判定した全認知症の発症とした。

 解析の結果、PA患者群ではEH患者群と比べてベースラインで糖尿病(69% vs. 40%)、脂質異常症(84% vs. 61%)、心房細動(11% vs. 2%)、非致死性脳卒中(9% vs. 3%)、心筋梗塞(14% vs. 4%)などの併存疾患の有病率が高く、降圧薬の使用割合が多かった(全てP<0.001)。

 追跡期間中(中央値5.2年)の全認知症の発症は、PA患者群で156例(4.2%)、EH患者群で522例(3.5%)だった。PAの治療開始を起点とする解析の結果、PA患者群はEH患者群と比べて全認知症リスクが有意に高かった〔未調整ハザード比(HR)1.26、95%CI 1.05~1.51、P=0.011〕。

 年齢、性、収入、併存疾患、併用薬を調整後の解析では、有意でないもののPA患者群における全認知症リスクの上昇傾向が認められた(調整後HR 1.20、95%CI 0.95~1.51、P=0.134)。血管性認知症のリスクは、調整後もPA患者群で有意に高かった(同1.59、1.07~2.36、P=0.020)。

MRA投与群では全認知症リスクも有意に上昇

 PAの治療法別に見ると、EH患者群と比べてMRA投与群では全認知症(調整後HR 1.31、95%CI 1.03~1.67、P=0.027)、血管性認知症(同1.62、1.08~2.45、P=0.020)のリスクが有意に高かった。一方、ADX施行群では全認知症リスクが有意でないものの低かった(同0.69、0.41~1.15、P=0.157)。これらの関連は、PAの治療開始ではなく高血圧の診断(発症)を起点とする解析でも維持されていた。

 サブグループ解析では、女性、65歳未満、糖尿病合併がMRA投与群における認知症リスク上昇の危険因子である可能性が示唆された。

 以上の結果から、Hong氏らは「EH患者と比べてPA患者、特にMRA投与例では認知症リスクが上昇する可能性が示唆された。PA患者の認知症発症を予防するには、治療開始後も認知機能のモニタリングが必要であろう」と結論している。

(太田敦子)