米国小児科学会(AAP)感染症委員会は、小児における今シーズン(2023/24年)のインフルエンザワクチン接種に関するステートメントをPediatrics2023年8月29日オンライン版)に発表した。昨年に引き続き、生後6カ月以上の小児に対し10月末までの接種を推奨している(関連記事「小児インフルワクチン、10月末までに接種を」)。

高齢者、妊娠初期・中期の女性は9月以降の接種を

 AAPは、医学的禁忌のない全ての小児に対して、生後6カ月から毎年インフルエンザワクチン接種を推奨している。昨シーズン(今年4月15日まで)にワクチン接種を受けた生後6カ月~17歳の小児は55.1%であり、一昨シーズンの53.3%と比較して大差はなかった。

 ステートメントの基本的な事項は昨年と同様だが、昨年の12項目から今年は21項目と大幅に内容が追加された。昨年と異なる点として、悪性新生物を患う小児や抗B細胞療法や臓器移植を受ける小児など、特定の条件を満たす重篤な疾患や進行性の疾患を有する小児への接種に関して詳細な記載が加えられた。妊娠中の女性やそれに対応する医師への推奨事項、ワクチン接種に係る医療格差の排除を奨励する内容も詳細に記載された。

 また、昨年は65歳以上の高齢者に対し、免疫力の低下を懸念して早めの接種を控える必要はないとしていたが、今年は65歳以上の高齢者と妊娠第1三半期と第2三半期の女性に対し、免疫力低下の懸念から、7月と8月に接種すべきではないと変更された。

 ステートメントの推奨事項は以下の通り。

1. 2023/24年のインフルエンザシーズン中に、子供や青年を含む生後6カ月以上の全ての人にインフルエンザワクチン接種を推奨する

2. AAPは、年齢と健康状態に適した認可済みの全てのインフルエンザワクチン製品を推奨しており、不活性化ワクチンや弱毒生ワクチンなど、特定の製品を別の製品より推奨するものではない。組み換え蛋白ワクチンは18歳以上に対して接種できる。医療提供者は、ワクチン接種のあらゆる機会を利用し、今シーズンの高い接種率を達成するため、適切で接種可能な製品を接種する

3. 弱毒生ワクチンは、免疫不全の人やなんらかの慢性症状のある人には使用すべきではない

4. 小児に推奨されるインフルエンザワクチンの接種回数は、前シーズンと同様に初回接種時の小児の年齢とインフルエンザワクチン接種歴によって異なる。初めて接種を受ける6カ月から8歳の小児、今年の7月1日以前に1回しか接種を受けていない小児、接種歴が不明な小児は、今シーズンに最低4週間の間隔を空けて2回接種すべきである。推奨される最小間隔の4日前までに投与された投与量は許容できると見なされ、他の全ての小児は今シーズンに1回接種する必要がある。2回のインフルエンザワクチン接種が必要な8歳の小児については、1回目の接種と2回目の接種の間に9歳になったとしても、ワクチンを2回接種する必要がある

5. 年齢に応じた用量と回数を接種する必要がある。誤って年長の小児や成人の用量を投与された場合も有効と見なす。また、36カ月以上の小児に誤って推奨用量より低い用量(例:0.25mL)が投与された場合は、できるだけ早く追加投与(0.25mL)し、推奨用量(0.5mL)にする必要がある。0.5mL用量の不活性化ワクチンは2回に分けて0.25mLずつ投与してはいけない

6. 1シーズンで2回の接種が必要な場合、同じ製品である必要はない。年齢や健康状態に適していれば、不活性化ワクチンと弱毒生ワクチンの組み合わせでも構わない

7. ワクチンが入手可能になり次第早めの接種が必要である。流行が始まる前に最適な予防を行うため、今年10月末までの接種が理想である。成人(特に65歳以上の高齢者と妊娠第1三半期/第2三半期の女性)は、免疫の低下が懸念されるので7月と8月に接種すべきではない。インフルエンザワクチン接種の取り組みはシーズンを通して継続する必要がある

8. 不活性化ワクチン(または対象年齢であれば組み換え蛋白ワクチン)は他の不活性化ワクチンまたは生ワクチン接種と同時期でも、前後でもいつでも接種できる。弱毒生ワクチンは、新型コロナウイルス感染症ワクチンを含む他の生ワクチンまたは不活性化ワクチンと同時に接種できる。もし同時に接種しない場合は、弱毒生ワクチンや、その他の非経口生ワクチン接種から4週間の間隔を空けなければならない(4日間の猶予期間は認められる)

9. 悪性新生物を患う小児の場合、不活性化ワクチンを接種する最適な時期は定義されていないが、臨床的に可能な場合は、一般的に細胞毒性化学療法の2週間以上前に接種すべきである

10. 過去6カ月以内に抗B細胞療法を受けた小児については、B細胞の回復が判明するまで不活性化ワクチンの接種は延期する必要がある。こうした免疫不全状態の患者と接触する家族は、毎年インフルエンザワクチンを接種する必要がある

11. 造血幹細胞レシピエントの場合、移植後4~6カ月から不活性化ワクチンを接種できる。臓器移植のレシピエントは移植後3カ月から不活性化ワクチンを接種できるが、インフルエンザが流行する季節では移植後1カ月とする場合もある

12. 妊娠中の女性は、自身と胎児の保護のために妊娠中いつでも不活性化ワクチン (または対象年齢であれば組み換え蛋白ワクチン)を接種できる。妊娠中にインフルエンザワクチンを接種していない場合は、退院までに受けることを推奨する。インフルエンザワクチンは授乳中でも母子にとって安全である

13. 妊娠中の女性に対応する小児科医は、妊娠女性と乳児に対しワクチン接種の利点を強調し接種を推奨すべきである

14. 妊娠中にワクチン接種していない産後の女性は、退院までにワクチン接種する必要がある。入院中に接種を断る場合は、産科医や家庭医、看護師助産師や信頼できる医療提供者とワクチン接種について話し合うことが推奨される。無料でワクチン接種できるクリニックに関する情報は、こうした女性たち、特に予防医療に障壁を感じている女性たちに適した言語で提供される必要がある

15. 4月から9月にかけて熱帯地方に旅行する、クルーズ船に乗る、南半球に旅行する人は、もし前年秋か冬にワクチン接種しておらずワクチンが入手可能なら、出発の2週間前までにワクチン接種を検討する必要がある

16. 全ての小児に対し、ワクチン接種を促すべきである。特に5歳未満の小児や高リスク集団とその接触者は禁忌を除き推奨する。健康格差の影響を受ける地域においてインフルエンザワクチン接種を促進するには、予防接種に関連する計画を策定する際に、その地域のメンバーを含めることが重要である

17. 低年齢児には医療機関での接種が最適だが、学校や薬局など医療機関以外の場所での予防接種を推進し、予防接種に対する格差を減らすことは接種率を向上させうる。医療機関以外で接種した場合は、適切な文書を患者と医療機関に提供する必要がある。ワクチン接種を行う施設は、ワクチン接種の詳細について適切な予防接種情報システム(IISs)に提出する必要がある

18. 小児・青年に対しサービスを提供する医療機関は、家族や濃厚接触者へのワクチン接種を検討する場合がある

19. 民間医療保険に加入する患者と、小児へのワクチンプログラムを通して適格となった患者の間にあるインフルエンザワクチン供給の格差を排除するような努力が必要である

20. 公的または民間の医療保険者は、医療提供者に対し7月と8月のワクチン接種に対する報酬が支払われ、いまだ存在する「患者の自己責任」というワクチンに対する障壁を排除できるように、小児へのインフルエンザワクチン供給と接種に対し適切な支払いを行うべきである

21. AAPは、インフルエンザを予防しインフルエンザウイルス感染に関連する治療を減らすための重要な要素として、医療従事者へのインフルエンザワクチン接種を支援する

(平吉里奈)