抗菌薬は感染症治療に不可欠だが、薬剤耐性菌が問題となっている。一方で、動物実験ではチゲサイクリンが肝細胞がん(HCC)の増殖を抑制すること、モデルマウスにおいてゲンタマイシンやアミカシンがHCCの発現を促進するデオキシコール酸の肝臓組織における濃度を低下させることが知られている。しかし、これらの薬剤のHCCへの長期効果を検討したエビデンスは少ない。そこで、韓国・Seoul National University HospitalのSeogsong Jeong氏らは、Korean National Health Insurance Service(NHIS)のデータを用いて大規模後ろ向きコホート研究を実施。抗菌薬の長期投与がHCCに及ぼす影響を検討し、HCCリスクが低下したとCancer Commun2023年9月13日オンライン版に発表した(関連記事「抗菌薬で皮膚T細胞性リンパ腫抑制を初報告」「経口抗菌薬が結腸がんリスク上昇に関連」。

5~7年の長期投与で36%低下

 対象は計980万5,027例、追跡期間の中央値は15.0年(平均14.2年)で、2007年1月からがん発症、死亡、2021年12月31日のいずれか早い時点まで追跡した。抗菌薬への初回曝露は最初5年以内の累積処方日数と定義し、非使用、1~14日、15~59日、60~179日、180~364日、365日以上に分類し、使用した抗菌薬の数で非使用、1、2、3、4、5種類以上に分類してHCCリスクを検討。主要評価項目はHCCの新規診断とした。

累積投与日数、抗菌薬の使用数とHCCリスクとの間に負の相関

 解析の結果、抗菌薬の累積処方日数が増えるほどHCCリスクは有意に低かった(傾向性のP<0.001)。また、非使用群に対し365日以上使用群(5種類)ではHCCリスクは低かった〔調整後ハザード比(aHR)0.64、95%CI 0.61~0.67、傾向性のP<0.001〕。さらに慢性肝疾患、B型肝炎、C型肝炎、2型糖尿病と診断された患者を除外しても、非使用群に対し365日以上使用群で低リスクだった(同0.70、0.65~0.76、傾向性のP<0.001)。5~7年の長期投与例においても非使用群と比べHCC発症は少なかった(同0.64、0.60~0.68、傾向性のP<0.001)。

 層別解析では、B型肝炎ウイルス(HBV)非感染例と比べ、感染例における365日以上使用群は低リスクだった(aHR 0.64 vs. 0.59、傾向性のP<0.001)。また、365日以上使用群で抗ウイルス薬治療を受けていないB型肝炎患者のaHRは0.57(95%CI 0.51~0.64、P<0.001)、抗ウイルス薬治療を受けていたB型肝炎患者のaHRは0.83(同0.63~1.09、P<0.001)であった。さらに5種類以上使用群では非使用群に比べHCCリスクが低かった(aHR 0.65、95%CI 0.62~0.69、傾向性のP<0.001)。

 これらの結果から、Jeong氏らは「抗菌薬の投与はHCCリスクの有意な低下と関連しており、累積投与日数および使用数とHCCの発症には負の相関が見られた」と結論。研究の限界として抗菌薬の累積日数は実際の用量を反映していない可能性や、食習慣、環境因子、遺伝因子といった交絡因子を考慮していない点を挙げ、「腸内細菌叢や肝臓内の微生物は人種・民族によって異なる可能性があるため、研究結果を一般化するには他の地域での検証が必要だ」と付言している。

山田充康