小児の肥満が深刻な問題となっている米国では2023年、米国小児科学会(AAP)が小児肥満の評価と治療に関する臨床ガイドライン(GL)を発表。12歳以上の高度肥満児に対して薬物療法を勧めるなど、早期からの積極的な治療を促す推奨を示した(Pediatrics 2023; 151: e2022060640)。カナダでもAAPのGLに準じて小児肥満診療GLの見直しや改訂が進められているが、小児に対する抗肥満薬の費用効果は不明だった。そこでカナダ・University of ManitobaのShweta Mital氏らは、米国で承認されている抗肥満薬4剤を12~17歳の高度肥満の青少年に使用した場合の費用効果についてマイクロシミュレーションモデルを用いて検討。結果をJAMA Netw Open2023; 6: e2336400)に報告した。

GLP-1製剤による肥満症の治療費は年間1万2,000ドル超

 小児期の肥満は成人期の肥満リスクを高めるが、現在の米国における青少年の半数以上が35歳までに肥満になることが予測されているなど、依然として肥満は米国の公衆衛生における大きな課題となっている。こうした中、AAPは2023年1月、肥満を有する12歳以上の青少年に対して抗肥満薬を用いた治療を、また13歳以上の青少年に対して肥満外科手術を推奨するGLを発表。青少年の肥満に対して早期の段階から積極的に治療介入することの重要性を示した。

 なお、米国では以前から抗肥満薬としてGLP-1受容体作動薬リラグルチドと消化管リパーゼ阻害薬オルリスタット(日本では要指導医薬品として承認)が用いられてきたが、2021年から2022年にかけてGLP-1受容体作動薬セマグルチド、phentermineとトピラマートの経口徐放性配合薬(以下、phentermine-トピラマート)が12歳以上の肥満症治療薬として米食品医薬品局(FDA)に承認され、抗肥満薬の選択肢が広がった。

 その一方で、抗肥満薬を用いた治療に関してはオルリスタットやphentermine-トピラマートで年間1,500~8,500ドル(約22万~130万円)、セマグルチドやリラグルチドで年間1万2,000ドル(約180万円)超とも推定されている治療費の高さが課題となっている。また、これら4剤の有効性は臨床試験で確認されているが、BMIを低下させる効果には薬剤間でばらつきがある。そのため、複数の研究で各薬剤の費用効果が検討されているが、いずれの研究も成人を対象としており、小児における抗肥満薬の費用効果は不明だった。

 Mital氏らは今回、小児における抗肥満薬4剤の費用効果を定量化するため、既に発表されている文献のデータを収集し、マルコフ・マイクロシミュレーション・モデルを用いた経済的評価を実施した。同モデルによって12~17歳の高度肥満(年齢および男女ごとのBMI 95パーセンタイル値の120%以上またBMI 35以上)を有する1万人(女性62%)をシミュレートし、BMIの推移は各抗肥満薬のランダム化比較試験(RCT)で示された実薬群とプラセボ群における体重の減少度または増加度に基づき判定。RCTの組み入れ基準は米国の青少年を対象に抗肥満薬とプラセボを比較した、期間が52週以上のものとした。

 各抗肥満薬の治療費には薬剤費の他、治療に関連するフォローアップ受診の費用、年間の全般的な医療費を含めた。効果は質調整生存年(QALY)を指標とし、1QALYを獲得するために追加で必要となる費用を求めた。また、各抗肥満薬群とプラセボ群の費用の差を、各抗肥満薬群とプラセボ群の効果(合計QALY)の差で除した増分費用効果比(ICER)を算出し、支払い意思額(1QALY当たり10万~15万ドル)と比較した。肥満外科手術を含めた検討も行った。

有効性が最も高いのはセマグルチドだが費用も高額に

 その結果、抗肥満薬4剤のうち最も費用効果が高いのはphentermine-トピラマートであった。オルリスタットとリラグルチドはphentermine-トピラマートおよびセマグルチドに比べて費用が高く、効果は低かった。

 phentermine-トピラマート群では無治療群(プラセボ群から推定)と比べて費用が6,921ドル高く、QALYは0.07延長し、ICERは9万3,618ドル/QALYであった。一方、セマグルチド群は効果の面では最も高く、phentermine-トピラマート群と比べてQALYは0.08延長することが示されたが、費用は8万4,649ドル高く、ICERは107万9,476ドル/QALYとなり、支払い意思額の閾値を上回っていた。

 またphentermine-トピラマートを除いた3剤では、無治療群との比較でICERが60万~130万ドル/QALYと費用効果が低いことが示された。

 次に、分析期間を考慮した感度分析を行ったところ、7.6年超の分析期間では、無治療群と比べてphentermine-トピラマート群のICERは15万ドル/QALYの支払い意思額の閾値を下回っていた。さらに、30年間の治療継続によってphentermine-トピラマート群の費用効果はより向上し、無治療群と比べたICERは3万100ドル/QALYまで低下した。

 一方、肥満外科手術はphentermine-トピラマートと比べQALYを延長したが、ICERは高く、費用効果は劣ることが示された。

 以上に基づき、Mital氏らは「小児肥満の治療薬として米国で承認されている4剤の中で最も費用効果が高いのはphentermine-トピラマートであることが示された。一方、セマグルチドはphentermine-トピラマートと比べ減量効果の面では優れているが費用は高く、追加の費用を正当化する臨床的ベネフィットの上乗せは示されなかった。また、感度分析では抗肥満薬を長期間にわたって使用することで費用効果が向上する可能性も示された」と結論。

 また、肥満外科手術は抗肥満薬と比べて費用効果が低いことが示された点については「Teen-LABS(Teen-Longitudinal Assessment of Bariatric Surgery)studyのデータを用いたが、同試験の対象は抗肥満薬の臨床試験の対象と比べて年齢がわずかに高く、ベースライン時のBMIも高かった」として、慎重な解釈を求めている。

 さらに、同氏らは「今後、抗肥満薬の長期的な効果と青少年に必要な治療継続期間を明らかにするため、さらなる研究が必要」との考えを示している。

(岬りり子)