新米医師こーたの駆け出しクリニック

自分の判断で薬をやめてしまう怖さ 
思わぬ結果を招くことも 専攻医・渡邉 昂汰

 今回も引き続き、みなさんに知っておいてほしいと思った症例を紹介していきます(個人情報を含むため内容の一部を編集しています)。

いろいろな情報があふれ、不安になることもあるでしょうが、そんなときはかかりつけ医や薬剤師に相談しましょう【時事通信社】

いろいろな情報があふれ、不安になることもあるでしょうが、そんなときはかかりつけ医や薬剤師に相談しましょう【時事通信社】


 〔症例〕

 65歳女性。自己免疫性肝炎の治療で、ステロイドを長期的に内服していましたが、週刊誌の「飲んではいけない薬ランキング」にステロイドが入っているのを見つけ、内服を自分の判断で中断してしまいました。

 ところが、その後、食欲の低下が続き、倦怠感も持続するため、病院を受診し、入院することになりました。
 
 ◇ステロイドとは

 ステロイドはもともと、腎臓の上にある副腎という臓器から分泌される、生命維持に必須の生体ホルモンの一つです。この成分を薬として使うと、炎症や過剰な免疫反応を抑えることができます。

 膠原病、気管支ぜんそく、アレルギー疾患などをはじめとする、さまざまな疾患の治療に有効で、また抗がん剤治療などの補助で使われることもあります。

 骨粗しょう症、糖尿病、感染などの副作用に気をつけて使っていく必要はありますが、現代の医療にとって欠かせない薬と言えるでしょう。
 
 ◇自己判断でやめるのは危険

 ステロイドを長期的に内服もしくは注射していると、「体内に十分なステロイドがあるから、今は副腎からの分泌はいらないな」と体は判断します。

 こうして「お休み期間」になった副腎が分泌を再開するには、少し時間がかかります。

 ここで、内服や注射を急にやめてしまうと、突然ステロイドが体内からなくなることで、急性副腎不全という状態になります。

 症状は倦怠感、食欲低下、血圧低下、低血糖などです。ステロイドを中止するときは、医師の指示の下で徐々に減らし、副腎機能をゆっくり戻すのが鉄則です。 
 
 ◇まずは医療者に相談を

 今回の女性の症状の原因は、ステロイドをいきなり中止してしまったことによる急性副腎不全でした。幸い、ステロイドを補充することで状態は改善し、1週間程度で退院できましたが、致死的な経過をたどることもあります。

 突然中止すると、思わぬ結果を招く薬は、他にもあり、抗うつ薬や睡眠薬などが代表的です。

 いろいろな情報があふれており、不安になることもあるかもしれません。しかし、決して自己判断で中止せず、かかりつけ医や薬剤師など信頼できる医療従事者に相談することが、自分の体を守ることにつながります。

(了)


 渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 
内科専攻医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。

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